研究課題
本研究で我々は、制御性T細胞(Treg)の細胞外環境変化に対する系列安定性と適応性を制御する分子機構の解明を目指している。今年度は以下の成果を得た。安定性に関しては、Treg固有のエピゲノム形成にはFoxp3依存的経路と非依存的経路が存在することを示唆する我々の知見にたち、両者について研究を進めた。前者については、Foxp3と協調して内在性Foxp3発現誘導を促進する転写因子を1つ同定し、その転写因子がFoxp3と協調してFoxp3遺伝子座のTSDR領域のDNA脱メチル化も促進することを見いだした。後者については、強く持続的なTCRシグナルがTSDR脱メチル化を促進するという我々の知見に基づき、阻害剤を用いてどのTCRシグナル伝達経路が重要かをスクリーニングした。その結果、mTOR経路とCREB経路が重要である可能性が示唆された。適応性に関しては、これまでにTreg特異的BATF欠損マウスおよびFoxp3のDNA結合活性を障害するFoxp3<R397W>変異マウスを用いた解析から、両者の様々な組織でエフェクターTregが欠損することを明らかにした。また、これら変異TregのRNA-seq解析、Foxp3とBATFのChIP-seq解析を行い、エフェクターTregに特徴的な遺伝子が両者によって協調的に制御される可能性が示唆された。そして、両者の機能的協調の意義を明らかにするためにBATF欠損Foxp3<R397W>マウスから単離したTregにBATFとFoxp3を強制発現させてマウスに移入したところ、それぞれを単独で発現させた場合と比較してより効率的に非リンパ組織に集積し、エフェクターTregに特徴的な遺伝子発現が亢進することを見いだした。また、この機能的協調にはTCRを介した抗原刺激が必須であることがわかった。
2: おおむね順調に進展している
安定性:Foxp3依存的経路については、着目している転写因子の機能解析を進めている。TSDR脱メチル化を促進する転写因子を同定したという発見は重要であるが、強制発現系を用いたgain-of-function解析であるため、変異マウスを用いたloss-of-function解析が必要である。今年度floxマウスを入手してこの解析も進めたが、X染色体上の遺伝子であるため同じX遺伝子であるFoxp3のhCD2レポーターノックインアレルを用いることができない。このため、Foxp3-eGFP BAC Tgをレポーターマウスとして導入する必要があり交配に時間がかかった。Foxp3非依存的経路についてはスクリーニングの結果、重要なTCRシグナル伝達経路を同定することができた。適応性:Foxp3とBATFの機能的協調の意義を明らかにできた。両者の協調によるエフェクターTregの組織への集積促進の分子メカニズムの解明が次の課題であり、両者によって制御される標的遺伝子を同定するためにRNA-seq解析に取りかかっている。以上の理由から、当初の計画通りに順調に研究が進んでいると考えている。
安定性:Foxp3依存的経路については、着目している転写因子の機能解析をloss-of-function解析により進める。また、この転写因子とFoxp3がどのようにTSDRの脱メチル化を促進するのか、そのメカニズムに迫るために、これら転写因子の構造活性相関解析を進める。Foxp3非依存的経路については、mTOR, CREBという2つの経路の重要性が示唆されたので、ノックダウン解析等によりこれら経路の役割をさらに検証する。また、両者の経路の関連、TSDR脱メチル化にいたる経路について検討を進める。適応性:Foxp3とBATF両者によって発現が制御される標的遺伝子を同定し、その機能解析を進める。また、Foxp3とBATFの協調メカニズムについて、免疫沈降解析などにより解析を進める。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 3件、 招待講演 5件)
医学のあゆみ
巻: 268 ページ: 1036-1042
巻: 268 ページ: 1101-1105
J Immunol
巻: 200 ページ: 3291-3303
10.4049/jimmunol.1701222
Genome Med
巻: 10 ページ: 71
10.1186/s13073-018-0581-y
臨床免疫・アレルギー科
巻: 69 ページ: 1-6
巻: 265 ページ: 724-728