研究課題/領域番号 |
18H04026
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山田 泰広 東京大学, 医科学研究所, 教授 (70313872)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | reprogramming / kras / mouse / epigenetics / pancreatic cancer / iPS |
研究実績の概要 |
がん細胞は、しばしば正常細胞の分化の特徴を失っている。しかしながら、この「脱分化」が発がんの「原因」の一つなのか、単に「結果」なのかについては、明らかにされていない。本研究では、Krasによって誘導される膵臓がんマウスモデルを対象として、膵臓の細胞を部分的に初期化することで人工的に脱分化を起こし、がん発生に与える影響を検証した。まずはじめに、Kras遺伝子変異を持つマウスでは、Kras下流のシグナルであるERKが活性化されておらず、Kras遺伝子変異単独では膵臓がん発生に不十分であることを明らかにした。次に、膵臓の腺房細胞に初期化を誘導すると、細胞の分化状態を規定するとされるsuper-enhancerの活性が速やかに抑制され、腺房細胞を特徴づける遺伝子の発現が一時的に抑制されることを確認した。初期化因子発現により実際に生体内で脱分化が誘導できることを確認した。脱分化の結果として、腺房細胞はduct細胞の性質を獲得する(acinar to ductal metaplasia [ADM])ことを見出した。脱分化に伴うsuper-enhancerの抑制、ADMは膵炎の誘導時にも観察された。さらに、Kras変異マウスに一時的に初期化因子を働かせて膵臓細胞を脱分化させると、ERKのシグナルが持続的に活性化され、実験開始からわずか10日間で膵臓がんを形成することを示した。以上の結果から、脱分化に伴うエピジェネティックな変化がKras誘導膵臓がんの発生に重要な役割を果たしていることが示された。また、炎症が脱分化の原因となっていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
細胞初期化により人工的に一時的な脱分化を誘導するモデルの作成に成功した。さらに、本モデルを応用して、Kras遺伝子変異膵癌モデルにおいて脱分化に関わるエピゲノム制御がKras変異細胞の癌化に十分であることを示すことができた。本結果はNature Communicationsに掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、リプログラミング技術を応用した個体レベルでのがんエピゲノム研究を遂行する。以下の目標を設定して研究を行う。 [1] 発がんにおける細胞脱分化に関連したエピゲノム制御機構の役割を明らかにする。 [2] がん細胞由来iPS細胞を応用して、がん細胞の起始細胞を同定する。 [3] 発がんの細胞種特異性の分子基盤を明らかにする。 [4] エピゲノム制御を標的としたがん細胞の運命制御の可能性を提示する。 リプログラミング技術をエピゲノム改変のツールとして利用することで、発がんにおけるエピゲノム制御の意義を「細胞脱分化」「がんの起源細胞」「細胞種特異性」に着目し解析する。さらに、その知見を応用して「がん細胞の運命制御の可能性を提示」し、エピゲノム制御による独創的ながん治療法の開発を目指す。
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