研究課題/領域番号 |
18H04026
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山田 泰広 東京大学, 医科学研究所, 教授 (70313872)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 細胞老化 / マウスモデル / エンハンサー / 肉腫 / iPS細胞 |
研究実績の概要 |
2019年度は、研究目標[2] 「がん細胞由来iPS細胞を応用して、がん細胞の起始細胞を同定する」、研究目標[3] 「発がんの細胞種特異性の分子基盤を明らかにする」についてEWS/ATF1融合遺伝子による明細胞肉腫マウスモデルを用いて解析を行った。がん細胞由来iPS細胞を胚盤胞にマイクロインジェクションすることでキメラマウスを作製した。キメラマウスの大部分の臓器では細胞老化が誘導されたのに対して、皮下組織では速やかに二次性の肉腫を形成した。異なる細胞老化反応が臓器特異的な発がんの原因となっていることが明らかとなった。詳細な病理組織学的解析から、二次性の発がんは皮下組織の末梢神経から発生することを見出した。細胞種特異的にEWS/ATF1融合遺伝子を発現可能なマウスを作製することで、起始細胞の同定を進め、最終的に神経堤由来細胞から肉腫が発生すること、さらには神経堤由来細胞の中でもTPPP3発現細胞が起始細胞であることを見出した。細胞種ごとに異なる細胞老化反応には、エンハンサーへのEWS/ATF1融合タンパクの結合パターンの違いが重要であることを示した。最終的に、肉腫細胞においてEWS/ATF1融合タンパクの結合パターンを変化させることで肉腫細胞に細胞老化が誘導できることを示し、細胞老化に着目した新規治療戦略を提示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
がん細胞由来iPS細胞を駆使して、がん細胞の起始細胞の同定に成功し、その分子基盤を明らかにした。特に、異なる細胞老化反応が臓器特異的な発がんの原因となっていることを示した。得られた知見を応用して、ヒト細胞株においても細胞老化を誘導することに成功し、細胞老化誘導に着目した新規治療戦略を提唱した。本研究成果は、Nature Communications誌に掲載された。 研究開始時点での研究目標[1] 「発がんにおける細胞脱分化に関連したエピゲノム制御機構の役割を明らかにする」に関しては、2018年度にKras膵がんモデルにて目標を達成している(Nature Communications, 2018)。2019年度は、研究目標[2] 「がん細胞由来iPS細胞を応用して、がん細胞の起始細胞を同定する」、研究目標[3] 「発がんの細胞種特異性の分子基盤を明らかにする」について、明細胞肉腫モデルで達成したと考えている(Nature Communications, 2019)。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、リプログラミング技術を応用した個体レベルでのがんエピゲノム研究を遂行する。以下の目標を設定して研究を行う。研究目標 [1] 「発がんにおける細胞脱分化に関連したエピゲノム制御機構の役割を明らかにする」、研究目標[2] 「がん細胞由来iPS細胞を応用して、がん細胞の起始細胞を同定する」、研究目標[3] 「発がんの細胞種特異性の分子基盤を明らかにする」については、現在までの研究により達成できたと考えられるので、今後はフォローアップ研究を持続しながら、研究目標[4] 「エピゲノム制御を標的としたがん細胞の運命制御の可能性を提示する」について研究を進める。リプログラミング技術をエピゲノム改変のツールとして利用することで、発がんにおけるエピゲノム制御の意義を「細胞脱分化」「がんの起源細胞」「細胞種特異性」に着目し解析を継続する。得られた知見を応用して「がん細胞の運命制御の可能性を提示」し、最終的にはエピゲノム制御による独創的ながん治療法の開発を目指す。
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