研究課題
ゲノム解析では、グリアネットワークに影響を与えるゲノムコピー数変異(CNV)の探索を行った結果、これまでに22q11.2欠失(統合失調症患者14例)、ASTN2欠失(統合失調症3例、自閉スペクトラム症(ASD)1例、双極性障害3例)を有する患者を同定し、一部の患者からiPS細胞の樹立も行った。次にCNVデータを用いて、gene ontologyに基づいた遺伝子セット解析を行った結果、グリア新生(gliogenesis)に関与する遺伝子セットに統合失調症とASDの患者CNV(重複)が有意に集積することを見出し、両疾患の脳病態への関連を示唆する知見と考えられる。さらに、グリア関連遺伝子であるMAFB、MAP1B、MOG、OLG1、SOX10において発症リスクに関与する一塩基変異(SNV)を探索するため、統合失調症294例、ASD188例、健常者328例を対象にターゲットリシークエンスを行った。その結果、これまでに1個のナンセンス変異、3個のフレームシフト変異、15個のミスセンス変異を検出した。最後に、上述のASTN2欠失を有する統合失調症患者から樹立したiPS細胞を用いて、ヒト脳発達過程におけるASTN2の機能的な意義の解明に着手した。これまでに、ASTN2欠失患者iPS細胞から誘導した中枢神経系細胞では、健常者iPS細胞由来中枢神経系細胞に比べると発達異常を呈することが明らかになった。現在、ゲノム編集技術を適用することにより、ASTN2欠失アイソジェニックiPS細胞株の作製を行っている。
2: おおむね順調に進展している
ゲノム解析から、グリアネットワークへの影響が想定されるCNVを複数同定した。特に今回同定したASTN2欠失は、脳発達中のグリア誘導ニューロン移動において重要な役割を果たすこと、ASDやADHDの発症リスクとの関連が既報の研究で明らかになっている。ASTN2欠失を有する患者からiPS細胞を樹立・解析し、発達異常を示唆する知見を得るなど、同変異の生物学的意義の解析は順調に進展している。これに加えて、CNVデータを用いた遺伝子セット解析からは、グリア新生が病態に関与することを示唆する知見を得ている。一方で、グリア関連遺伝子を標的としたターゲットシークエンス解析にも着手し、約800例の解析が完了している。既にナンセンス変異やフレームシフト変異などの機能的変異を同定している。以上の結果から、本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
CNV解析では、サンプル数を拡大して、グリアネットワークに影響を与え、かつ、精神疾患の発症に関与するCNVの探索を継続するとともに、遺伝子セット解析に基づいた病態解析を実施する。ターゲットリシークエンスでは、サンプル数を拡大し、変異の同定を行い、各変異と疾患との関連を評価する。疾患との関連が見出され、グリア関連遺伝子のタンパク質機能に影響を与える可能性のある新規の変異が同定された場合には、その機能解析を検討する。また、統合失調症の患者で同定したASTN2欠失の生物学的意義を明らかにするため、iPS細胞を用いた解析を進める。
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