研究課題
パーキンソン病(PD)の治療は、依然として対症治療のみであり、進行を遅くできるような疾患修飾療法の開発は遅れている。運動症状のみならず、認知症や自律神経症状などの非運動症状も日常生活を妨げる要素となっており、病変はドパミン神経のみならず多岐に渡ることは、明白であり、事実、レヴィ小体の主要構成蛋白であるα-synuclein (SNCA) は、機序は不明であるが、脳内を伝播すると報告されている。本課題では、PDの本質的病理マーカーであるレヴィ小体の形成メカニズムとその伝播機構を、2つのアプローチで明らかにする。1) 遺伝性と孤発型PDには共通機序が存在することが予想されており、レヴィ小体が存在することが明らかな遺伝性PDの遺伝子産物の機能解明を行う。2) SNCA伝播システムを明らかにする。これらアプローチから孤発型PDにおけるレヴィ小体の形成メカニズムとその伝播機構の解明に迫ることを目的とした。2018年度は、1) PLA2G6(Park14)ショウジョウバエモデルを作製し、脂質組成の変化がレヴィ小体形成に重要であることを見出した。細胞死もレヴィ小体様の変化も脂質組成の変化で改善されることを明らかにした。このことはヒトPDにおいても脂質組成を変えるような食事療法をはじめとする非薬物療法の可能性を示すものである。また、Park22の原因遺伝子CHCHD2の変異型とSNCA過剰型を掛け合わせたショウジョウバエでは細胞死の増強効果が観察された。ミトコンドリアに一次的障害があるとレヴィ小体形成が促進されることが示された。2)伝播モデルに関しては、脳梁離断やボツリヌス神経毒で伝播が抑制されることを見出した。ボツリヌス神経毒で抑制されたことはtrans-synapticにSNCAが伝播することを示しており、現在数社で同時に進められている抗体療法の有効性の可能性を示唆するものである。
2: おおむね順調に進展している
既にSNCAの凝集メカニズムにミトコンドリア電子伝達系に関与する遺伝性PDの遺伝子産物であるCHCHD2の変異型が増強効果を示すことが明らかにされた。一剖検脳であるが、神経病理学的な検討で多くのレヴィ小体やSNCAニューライトを観察しており、SNCAの凝集にミトコンドリアが関与していることを見出しており、既に論文準備中であり、順調に計画が進んでいると考えている。また、PLA2G6の解析から脂質組成がレヴィ小体形成上重要であることを見出し、現在論文投稿準備中であり、順調に進んでいると言える。更にヒトPD患者での剖検脳における脂質解析も開始した。SNCAの伝播に関しては、ボツリヌスで一部養成されること、またヒトリコンビナントprefibril formの注入により12週するとヒトSNCAは凝集体から消えて、新たに内在性マウスSNCAに置き換わることを見出した。この現象はSNCAの伝播もまたプリオン蛋白同様αヘリックスからβシート構造へ変換されることを示すものである。マウスモデルでは伝播はプリオン様であると言える。抗体療法の有効性を考え、様々なエピトープに対する抗体を作製し、その伝播抑制効果の検討も開始しており、概ね計画は順調と言える。
PLA2G6のショウジョウバエモデルを使い、シーズスクリーニングを行い、SNCA凝集抑制効果を示す治療開発を目指す。既にシーズスクリーニングを開始している。また他の遺伝性PDの原因遺伝子parkinやLRRK2でアストロサイトの機能不全が見出されているので、アストロサイトに注目してPLA2G6やCHCHD2のショウジョウバエモデルで解析を進める。また、レヴィ小体形成が予想される新規優性遺伝性PDの原因遺伝子Xを単離・同定できており、マウスモデルの作製と患者由来iPSを樹立してSNCAの凝集や細胞死メカニズムを明らかにする。伝播解析については、抗体療法が有効な手段であると考えられているが、治療効果を示すマーカーのスクリーニングを行う。ターゲットはSNCAであり、血液マーカーの同定を目指す。研究室には大学院性も3名、技術員3名おり、マンパワー的な問題はないと考えている。
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すべて 雑誌論文 (11件) (うち査読あり 11件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 4件、 招待講演 5件) 図書 (4件)
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