研究課題
移植医療は良い面ばかり注目されるが、あまり認識されていない深刻な課題こそが生涯に渡る免疫抑制剤の服用である。それにより副作用の発現や高額な医療費がもたらされ、特に近年悪性腫瘍の発生率増加が大きな社会問題と化している。この解決法として最も期待されているのが免疫隔離能を有する細胞デバイスの活用である。しかし患者が最も恩恵を受ける理想的移植部位である皮下への細胞封入デバイスの移植は、実用化とは程遠いのが現状である。本研究では、申請者等が独自に開発を進めてきた免疫隔離細胞デバイスと皮下における新生血管誘導手法を組み合わせ、糖尿病や肝不全治療を雛形として、夢の治療と考えられてきた“皮下における免疫抑制剤を必要としない移植医療”を実現するための基盤構築を目指す。本年度は、まず皮下における免疫隔離細胞デバイスの物性の至適化に取り組んだ。光センサータイプの高感度酸素分圧系を用いることにより、細胞デバイス留置部となる皮下の組織酸素分圧は10mmHg以下と極めて低値である事が明らかとなったため、後述する新生血管誘導法に加え、細胞デバイス内への持続的酸素供給を可能とする皮下埋め込み型の徐放性酸素ポートの構築に取り組み、プロトタイプを作製する事ができた。プロトタイプポートを用いることにより、細胞デバイス内の酸素分圧を48時間以上にわたって約200mmHgまで上昇させる事に成功した。この環境下での細胞デバイス内の移植細胞のバイオマーカーについて現在検証中である。さらに本年度は、リコンビナントペプチド(RCP)と脂肪組織由来間葉系幹細胞(ADSC)の組み合わせが皮下の細胞移植成績へ及ぼす影響に関しても検証を行い、移植細胞周囲の新生血管構築やフィブロネクチン等の細胞外マトリックスの補填により、皮下移植の成績が現行の世界標準法である門脈内移植の結果を凌駕し得ることを見出し、現在論文投稿中である。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度は、皮下における免疫隔離細胞デバイスの物性の至適化と、リコンビナントペプチド(RCP)と脂肪組織由来間葉系幹細胞(ADSC)の組み合わせが皮下の細胞移植成績へ及ぼす影響に関する検証という二つのテーマを設定し研究を推進してきたが、いずれの検証も当初の計画通り順調に進み、前者においては酸素徐放ポートの構築という新たな展開を切り拓く事に繋がった。また後者においては世界初となる知見を見出し、論文にまとめる事ができたため、本年度の研究計画は当初以上に極めて進展していると判断した。
本年度の研究を推進する事により、目的とする免疫抑制剤を使用しない皮下細胞移植を実現するためには酸素徐放ポートの構築が有用である事が判明したため、2019年度は2018年度の成果を基に国内企業と連携し、より洗練された試作機を作製し、細胞デバイスの更なる至適化を推し進めていく予定である。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 9件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 2件)
Scientific Reports
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