研究課題/領域番号 |
18H04059
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山本 浩文 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (30322184)
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研究分担者 |
土岐 祐一郎 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (20291445)
村瀬 研也 大阪大学, 国際医工情報センター, 特任教授 (50157773)
前田 浩 大阪大学, 医学系研究科, 招へい教授 (90004613)
木島 貴志 兵庫医科大学, 医学部, 教授 (90372614)
中川 貴之 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (40447363)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ドラッグデリバリーシステム / 低侵襲治療 / 難治性癌 / 炎症性疾患 |
研究実績の概要 |
申請者はスーパーアパタイト(sCA)ナノ粒子をDDSとして癌や炎症性疾患に対する核酸治療法を開発してきた。本研究では、① 難治性癌に対する核酸医薬の創出と コンパニオン診断用の組織細胞バンクの立ち上げ、② EPR増強作用を利用したsCAと各種抗腫瘍物質との併用療法と低侵襲治療法の開発、 ③ 臓器線維症に対する 核酸医薬の創出、④ sCAの問題であった肝集積や、腫瘍集積限界などの問題を解決する臨床利用できるDDSとしてiNaD (inorganic nanoparticle drug)を完成する ことを目的とした。以下に主だった進捗を示す。(A)KRAS変異のない肺癌細胞にレンチウイルスシステムによってKRAS変異を導入し、変異体のクローンの作成に成功した。(B)肺線維症については、マウスにブレオマイシンを投与し2週間後に肺組織を摘出し、FACSで樹状細胞を分離・回収した。これをmiRNAseqで検索して治療候補となるmiRNAを選別できた。(C)光感受性物質P-ZnPPについて食道癌細胞でマウスに皮下腫瘍を作成し、光照射により強力な腫瘍細胞死滅効果を確認した。(D)安定化核酸BCL2アンチセンスを250種類から4種類に絞り込んだ。大腸癌細胞株で抗腫瘍物質の毒性を高めることを確認した。(E)iNaDを超音波処理しフィルターで回収した。この粒子は従来の炭酸アパタイトの10分の1量で同等の抗腫瘍効果を発揮した。凍結乾燥してもiNaD粒子の特性は維持されることを確認した。(F)KRAS変異膵癌に著効するMIRTXの新たな分子メカニズムの解明に成功した。(G)MIRTXは難治性癌の悪性中皮腫にもよく効くことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
下記、研究の4つの柱のそれぞれにおいて進歩がみられている。① 難治性癌に対する核酸医薬の創出と コンパニオン診断用の組織細胞バンクの立ち上げ、② EPR増強作用を利用したsCAと各種抗腫瘍物質との併用療法と低侵襲治療法の開発、 ③ 臓器線維症に対する核酸医薬の創出、④ sCAの問題であった肝集積や、腫瘍集積限界などの問題を解決する臨床利用できるDDSとしてiNaD (inorganic nanoparticle drug)を完成する。その他、具体的な進捗は以下の通り。 (1)大腸癌組織から分離した培養細胞の凍結サンプルは10例を超え、肝細胞癌組織のバンク化を進めている。(2)KRAS変異大腸癌に対する治療剤として開発したMIRTXは新たに膵癌、肺癌、悪性中皮腫、トリプルネガティブ乳癌にも強い抗腫瘍効果を示した。(3)膵癌ではMIRTXの新たな標的として染色体の分裂に重要であるコンデンシン複合体を阻害することが明らかとなった。(4)MIRTXはラットやサルの安全性試験(単回最大量静脈内投与試験、2週間反復投与試験)もクリアし、早期の臨床利用が期待される。(5)癌幹細胞に対する新たな治療的microRNAとしてmiR-4711を同定した。この成果をBrit J Cancerに公表した。この核酸医薬はmiR-21やmiR-34よりも強力に腫瘍を阻止し、ヒトの大腸癌組織由来の癌細胞にも著効したことから、臨床利用が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画していた酸化鉄含有造影剤を用いた電磁波治療はプレ実験で腫瘍の取り込みが僅かなため、酸化鉄を付加したナノ粒子の作成から見直すこととした。イヌ肉腫を用いた研究も肉腫の種類が多岐にわたるため中皮腫などに絞った検討を行う。胃癌のシスプラチンを用いた腹膜播種治療の実験系は確立したが、シスプラチンとiNaD単独併用では腹膜播種を抑え込むには至らなかった。最終年度ではシスプラチン、iNaDに加えて安定化アンチセンスBCL2を併用することで胃癌の制圧を目指す。本研究課題で最も重要と位置付けているiNaDを使った前臨床試験への道筋を確立するためには、現在のマウス用に25ml溶液で製造している工程を、大幅に引き上げてサルで連続的に投与できるようにスケールアップする必要がある。またiNaDの原材料となる化合物Aも現在は少量を研究室で作成しているが、サルの実験に使用するべく大量合成の仕組みをつくることが肝要である。臨床応用のために、この2点を最重要課題として注力し、食道癌、肺癌、胆管癌、乳癌、肺線維症など個々の核酸医薬の創出に向けた研究を進め、少なくともmiR-4711以外に2種類の核酸医薬またはiNaDを併用する医薬品の創出を目指す。
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