研究課題
本研究の目的は、「ヒトの体細胞にイモリ型のリプログラミングを惹起する因子の解明に挑む」とともに「イモリの利用を医学の様々な分野に浸透させる」ことにより、イモリ型の臓器再生に向けた現実的な工程表を完成させることである。そのために、以下の3つの項目を同時に進めた。1.イモリの再生系と対比するためのマウスの瘢痕治癒系の開発を進めた。具体的には、1)骨格筋追跡用の遺伝子改変マウスについて、解析のための最適条件を決定した。また、成体マウスの肢を対象に、切断から瘢痕治癒までの過程を解析する新たな実験系の開発に着手した。2)網膜色素上皮(RPE)追跡用の遺伝子改変マウスについて、作製の最終段階に到達した。また、成体マウスの眼を対象に、網膜剥離から増殖膜形成までの過程を解析する新たな実験系を確立した。2.イモリの解析用リソースの整備を進めた。具体的には、1)骨格筋とRPEを追跡する遺伝子改変イモリを量産した。また、生産をより効率化するための新規な遺伝子改変技術を開発した。さらに、single-cell解析に向けて、細胞の収集技術の開発を進めた。2)アカハライモリのオミックスデータベースの構築を進めた。特に、一般公開済みの包括的トランスクリプトームデータベースに検索機能を付与し、刷新した。また、single-cell解析用のレファレンス・ゲノムデータベースを構築するため、long readのシーケンサーを新たに導入し、ゲノムシーケンスを開始した。3.イモリの医学分野への導入を進めた。具体的には、イモリ型の臓器再生フォーラムに所属する形成外科学の研究室を中心に、皮膚や顎、肢など様々な臓器の再生について、イモリとヒト(医学的知見)の比較研究を開始した。特に、成体イモリの解析から、イモリの再生に関して一般常識化した概念を再検証する必要性が出てきた。
3: やや遅れている
成体マウスの肢切断-創傷治癒モデルの作製がやや遅れている。理由は、担当している研究分担者(形成外科学)が、イモリの臓器再生の凄さに惹かれ、そちらに多くの時間を費やしたことによる。しかし、これは上記の項目3の進行に大きく貢献した。RPE追跡マウスの作製が若干遅れている。理由は、ドライバーマウスの作製に利用するマウス2系統のうちの1系統を、当初はNBRPから入手する予定であったが、これがかなわず、急遽このプロジェクトで作製しなければならなくなったためである(より高機能な異なるデザインのマウスを作製した)。アカハライモリのオミックスデータベースの構築が若干遅れている。理由は、イモリのゲノムが大きく(約37Gbp)、解析に時間がかかるためである。本研究では最終的に、イモリの再生過程とマウスの瘢痕治癒過程における細胞の遺伝子発現やその制御の違いを、単一細胞レベルで比較解析する計画である。そのために、マイクロ流路を組み合わせた最先端のsingle-cellオミックス解析技術は強力である。この技術を適用するために、レファレンス・ゲノムデータベースは必須である。
当初は、研究分担者(医学分野の研究者)がマウスの解析を中心に進める方針であったが、イモリを比較対象として導入する中で、興味の中心がイモリの再生メカニズムに移ってしまった。「イモリの利用を医学の様々な分野に浸透させる」ことも本研究の目的であることから、この意味では成功していると言える。しかしこれでは、マウスの解析が遅れてしまう。そこで次年度は、研究分担者の技術的支援を受けながら、マウスの実験系を研究代表者に集約する。これによりマウスの実験を加速させる(研究分担者によるイモリ研究の勢いはそのままに)。アカハライモリのゲノム解析についても、新学術領域研究・先進ゲノム支援の協力(H30年度採択)を得ながら、さらに推進する方針である。
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Scientific Reports
巻: 8 ページ: 7455
10.1038/s41598-018-25867-x