研究課題/領域番号 |
18H04062
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
日比野 浩 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (70314317)
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研究分担者 |
澤村 晴志朗 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (10781974)
増田 正次 杏林大学, 医学部, 准教授 (20317225)
田中 謙二 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 教授 (30329700)
神崎 晶 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (50286556)
崔 森悦 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (60568418)
任 書晃 岐阜大学, 大学院医学系研究科, 教授 (80644905)
永森 收志 奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (90467572)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 内耳 / 難聴 / 光遺伝学 / 薬剤誘導性遺伝子制御 |
研究実績の概要 |
人口の10%もが罹患する内耳性難聴には、発症や経過が急激なものや緩徐なものがある。その中で、増悪寛解を反復する“変動性”難聴は、しばしば重症化し難治となるため、症状を模倣する適切な動物モデルを作成すること、そしてそれを用いた難聴の病態解明や治療法開発が強く求められている。前年度までに、緩徐発症型難聴モデルとして、ドキシサイクリン(DOX)投与によりイオン輸送体NKCC1の発現が保たれるNKCC1-DOXマウスを、急性発症型難聴モデルとして、光照射により生ずる膜を介したイオン流入により上皮の電位動態が撹乱されるチャネルロドプシン2(ChR2)マウスを、それぞれ作成し、難聴の表現型や発症のタイミングを明らかにした。本年度は、NKCC1-DOXマウスの難聴症状と蝸牛側壁のイオン輸送機能に重要なNKCC1の発現量、聴覚に必須な内耳特殊体液の電位の時間変化と相関について詳細に調べた。聴覚が成熟した生後3週からDOX投与を中断することで、NKCC1の転写抑制を誘導したマウスの聴覚を聴性脳幹反応によって測定した。中断開始から50日余りの間は、ほぼ正常だった聴力が、その後日数経過とともに徐々に低下する結果が得られた。同時に、蝸牛に開けた微小の穴から差し込んだ極細のガラス電極を用いて測定した内耳特殊体液の電位も、同様の時間経過で低下することが明らかとなった。一方で、免疫組織学的手法で調べた蝸牛側壁におけるNKCC1の発現量は、DOX投与から1ヶ月後にはコントロールマウスと比べて約50%に低下した。以上より、難聴の原因は、NKCC1の発現低下による蝸牛側壁のイオン輸送能の低下にあると考えられた。また、NKCC1の発現低下と難聴発症時期の時間ずれから、何らかの代償機構が働いていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度までに、内耳蝸牛の電気・イオン環境を司る蝸牛側壁を標的にした遺伝学的手法により、緩徐発症型の変動性難聴モデル動物、および急性発症型の変動性難聴モデル動物の確認・樹立に成功した。さらに、それぞれの動物において、蝸牛機能を電気生理学的に評価する実験系を立ち上げた。これらの手法を用いて、当初の計画通り、これら動物モデルの難聴発症メカニズムを明らかにした。いずれのモデルについても、蝸牛側壁のイオン輸送機能の機能低下による電気的環境の破綻が原因であることを示唆する結果が得られている。今後、ヒト難聴に見られる変動性難聴の症状反復による重症化が起こるかどうか、およびそのメカニズムについて調査する。
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今後の研究の推進方策 |
緩徐難聴発症型であるNKCC1-DOXマウスについて、難聴発症後にDOXを再投与し、症状が回復するか調べる。回復が見られたら、再度DOX投与を中断し、NKCC1の発現を抑制することで難聴を再発させる。この難聴を反復させる過程で症状の重症化の有無を調べる。急性難聴発症型であるChR2マウスについては、すでに反復的に難聴症状を誘導することに成功している。今後、光照射の期間や間隔、頻度を変えることで、難聴が重症化する条件を探索する。また、そのメカニズムを明らかにする。
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