研究課題/領域番号 |
18H04068
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
天野 敦雄 大阪大学, 歯学研究科, 教授 (50193024)
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研究分担者 |
久保庭 雅恵 大阪大学, 歯学研究科, 准教授 (00303983)
竹内 洋輝 大阪大学, 歯学研究科, 助教 (40572186)
坂中 哲人 大阪大学, 歯学研究科, 助教 (90815557)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | P. gingivalis / 細胞内定着 / 細胞内輸送 / ポリアミン / メタボローム解析 / 歯周病 |
研究実績の概要 |
歯肉を覆う上皮細胞が形成する上皮バリアは、宿主が歯周病菌と拮抗状態を維持するために重要な役割を果たしている。重篤な歯周病を併発する先天性症候群の責任遺伝子は歯肉上皮の免疫機能に重要な役割を果たしている可能性があるが、その機能は不明な点が多い。 そこで平成30 年度は、これら症候群の責任遺伝子をノックダウン・ノックアウトしたヒト歯肉上皮細胞株をshRNA 安定発現とCrisper/Cas9 システムを用い作製した。また、各細胞の細胞内小器官の局在に焦点を当て、共焦点顕微鏡を用い各遺伝子欠失の表現型を形態学的に解析した。その結果、Leukocyte adhesion deficiency-1 の責任遺伝子であるITGB2 のノックダウンにより、後期エンドソームのマーカーであるCD63 の各近傍への集積を認めた。また、Cohen 症候群の責任遺伝子であるVPS13B のノックダウンにより細胞内分解の場であるリソソームのマーカーであるLAMP1 の各近傍への集積を認めた。歯周病を随伴する症候群の責任遺伝子のうち上記2つが、歯肉上皮細胞の細胞内輸送に影響することが示唆された。 予備実験において、P. gingivalisの感染を受けた歯肉上皮細胞ではポリアミン生合成経路に大きな変動が生じた。そこで、同菌のポリアミン代謝に関連する3つの酵素をそれぞれノックアウトした変異株 (アルギニン分解酵素変異株、ポリアミン産生酵素変異株、ポリアミン不活性化酵素変異株)を用いて、P. gingivalisのこれらの酵素群が培養上清中の代謝物質プロファイルに及ぼす影響について検討したところ、アルギニン代謝経路上のメタボライト(アルギニン、シトルリン、オルニチン)とその下流に位置するポリアミン産生経路上のメタボライト(アグマチン、プトレッシン、アセチルプトレッシン、スペルミジン、アセチルスペルミジン)について、それぞれの酵素の不活性化により、野生株とは異なるプロファイルを示すことが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
短期目標は、歯周病を随伴する症候群の責任遺伝子の欠失による歯肉上皮細胞の表現型を形態学的に観察することである。その結果、本研究計画の初年度に、2つ症候群の責任遺伝子の欠失につき確認することができた。初年度の目標は、本研究課題の達成のために必要であり、困難度も適切であった。今回の目標管理を通じ、各症候群の責任遺伝子をノックダウン・ノックアウトする方法、各遺伝子を欠失させた細胞の維持・管理、および細胞内小器官を共焦点顕微鏡で形態学的に観察するための方法を飛躍的に改善できた。 ついで、Porphyromonas gingivalisの感染が歯肉上皮細胞の代謝プロファイルにどのような影響を与えるのかを明らかにするための基礎的な知見として、同菌の野生株およびアルギニン-ポリアミン代謝関連遺伝子変異株(アルギニン脱イミノ化酵素変異株、カルボキシノルスペルミジン脱炭酸酵素変異株、ジアミンN-アセチル化酵素変異株)が、環境(培養上清)中の代謝物質プロファイルに及ぼす影響についての異同を確認することができた。現在、それぞれの変異株の菌体内代謝プロファイルについても詳細な検討を実施しており、アルギニンのポリアミン代謝がPorphyromonas gingivalisのエネルギー代謝や糖新生におよぼす影響についても解析を進めている
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今後の研究の推進方策 |
2019度は、歯周病を随伴する症候群のうち他の責任遺伝子を欠失させた歯肉上皮細胞を作成する。また、歯肉上皮細胞、線維芽細胞、および血管内皮細胞を用いた三次元歯肉上皮組織モデルを作成するため、培養に用いる細胞間基質の選定、培養条件の最適化、組織染色の条件検討、および共焦点顕微鏡での画像撮影条件の最適化等を行う。さらに、作成した歯肉上皮組織へ歯周病菌Porphyromonas gingivlais を感染させ、組織内侵入の過程を三次元的に観察する。 昨年度のエクソ-メタボローム解析により、感染後に環境(宿主細胞)中のアルギニンのポリアミン代謝プロファイルに異なる変動を来す能力を有することが示唆されたPorphyromonas gingivlaisのアルギニンのポリアミン代謝関連遺伝子変異株(アルギニン分解酵素変異株、ポリアミン産生酵素変異株、ポリアミン不活性化酵素変異株)と野生株を用いて感染実験を行い、ヒト歯肉上皮細胞にどのような変化を及ぼすかを検証し、細菌由来のポリアミンによる細胞傷害機構の全貌を示す。2019年度は、●Porphyromonas gingivlaisの細胞内局在の変化、●歯肉上皮細胞の細胞周期、細胞増殖、細胞死、栄養取込能、遊走能の変化、●オートファジー発現量の変化、について検討を加える。研究が順調に進捗した場合、2020度以降には、感染細胞における代謝プロファイルの変動と代謝関連酵素の遺伝子/タンパク発現状態を、アルギニンのポリアミン代謝経路近傍を中心として詳細に検討する。この際、ポリアミン産生経路のみならず、ポリアミンを不活性化/分解する経路や、トランスポーターの発現状態についても詳細に検討する。
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