研究課題/領域番号 |
18H04073
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
浅井 鉄夫 岐阜大学, 大学院連合獣医学研究科, 教授 (10509764)
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研究分担者 |
安藤 匡子 鹿児島大学, 農水産獣医学域獣医学系, 准教授 (10466914)
源 利文 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 教授 (50450656)
森部 絢嗣 岐阜大学, 社会システム経営学環, 准教授 (50456620)
大松 勉 東京農工大学, 農学部, 准教授 (60455392)
臼井 優 酪農学園大学, 獣医学群, 准教授 (60639540)
鈴木 正嗣 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (90216440)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 野生動物 / 環境 / 薬剤耐性 |
研究実績の概要 |
2020年度はCOVID-19の流行に伴う行動規制により野生動物のサンプル数は若干減少しているが、2018年度より収集した野生動物由来株の薬剤感受性データを蓄積しながら、環境DNA解析に供するサンプル及びGIS解析に必要な情報収集を行い解析した。①2018~2020年に収集した哺乳類11種由来大腸菌509株の薬剤感受性を調べた結果、4種由来大腸菌で薬剤耐性が低率に認められたが、2013~2017年に収集した野生動物由来株の成績と比べて大きな変化は認められていない。②2018年~2019年に群馬、岐阜、滋賀及び大分で収集したカワウ由来細菌(Aeromonas属菌198 株とEscherichia属菌194株)や2019年の春と秋に北海道宮島沼で収集したマガン由来大腸菌では、低率ではあるが薬剤耐性を保有し、その耐性には外来性耐性遺伝子が関与することが示された。また、③奈良公園で収集したシカの糞便中のキノロン耐性大腸菌の割合は採材時期により変動することが示唆されている。一方で、④岐阜大学や岐阜公園で捕獲した昆虫からは薬剤耐性菌がほとんど分離されず、薬剤耐性菌の伝播に関して昆虫の役割は小さいことが示唆された。このように、野生動物に薬剤耐性菌が低率ではあるが一定レベルで分布し、また⑤環境DNAメタバーコーディング手法を用いて北海道宮島沼の沼水を解析した結果、家畜由来の遺伝子は検出されず、マガンの遺伝子が検出され、飛来する野鳥が大腸菌の主な汚染源であることを推定することができた。現在、同手法を用いて、琵琶湖の耐性菌汚染の要因推定を行っている。また、医療や獣医療分野のモニタリングとの調和を図るため、これまでに野生動物および生息環境から抗菌薬入り選択培地を用いて分離したESBL産生菌の全ゲノム解析を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
野生動物における薬剤耐性菌の状況について、哺乳類、野鳥(水鳥)および節足動物を対象に調査した。自由生活する野生動物の保有する薬剤耐性菌の拡散について、奈良公園のシカで、複数のフルオロキノロン耐性大腸菌が都市環境下で汚染域を広げていること、大学内で捕獲したイタチと飼育動物間で類似した薬剤耐性因子が共通に分布するなど、野生動物が保有する薬剤耐性菌が人間生活に影響する可能性を示す成績が得られている。薬剤耐性菌は人間社会から野生動物への伝播経路については、環境DNA解析により河川の汚染に畜産関連施設の関与を示す成績が得られている。また、野生動物が保有する薬剤耐性菌は都市環境の野生動物で高頻度であることから、人間生活との関係が大きく影響することは明らかであるが、最終年度に向けGIS解析と微生物学的解析を継続実施する。 昨年度公表した2013~2017年に収集した野生動物由来保存株の成績は厚生労働省「薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書 2020」に収載された。今年度公表した成績についても、継続して情報提供していく。
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今後の研究の推進方策 |
2018~2020年度に実施した薬剤耐性菌の分布状況を捕獲地点の地理情報及び環境DNAに基づく分布要因解析を重点実施する。 ①野生動物における薬剤耐性菌の3拠点の調査:日本の北部(北海道~東北地方)、中央部(中部~近畿地方)及び南部(九州地方)に生息する野生の哺乳類や鳥類などを対象に腸内細菌における薬剤耐性菌の分布調査を継続する。 ②薬剤耐性菌による環境汚染に関する人間活動の影響の解明:群馬、岐阜、滋賀及び大分で収集したカワウから分離した細菌の薬剤感受性状況及び岐阜県内で収集した野生動物株の薬剤耐性状況を、捕獲地点の地理情報(人口密度 、ペットの飼育頭数、畜産農家の戸数及び動物種等)との関連を解析する。 ③捕獲地域の環境に生息する動物種の特定:薬剤耐性菌が分離された個体の生息地環境のサンプルを用いて環境DNAを継続解析して耐性菌の分布要因を解明する。特に、琵琶湖における耐性菌とその宿主候補の経時的な関係を環境DNAで分析するため、前年度に引き続き季節ごとのサンプリングを行い、それぞれのサンプルの環境DNA分析を行う。また、過去に収集された環境DNAサンプルを用いて同様の解析を行い、過去から現在にわたって、耐性菌および宿主候補動物の分布について調べる。
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