研究課題/領域番号 |
18H04081
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
征矢 英昭 筑波大学, 体育系, 教授 (50221346)
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研究分担者 |
根本 清貴 筑波大学, 医学医療系, 准教授 (80550152)
Yassa Michael 筑波大学, 体育系, 教授 (90817610)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 運動 / 認知機能 / fMRI / DREADDシステム / 海馬 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、 海馬機能を高める運動とアスタキサンチン(ASX)の併用を「次世代運動戦略」として開発し、種々の臨床現場への応用促進を目指す。3年計画の2年目である平成31年度は、実験計画に従いプロジェクト1~3を実施した。 プロジェクト1では、低強度運動 (LET) が認知機能を高める背景として、昨年度活性化を確認した腹側被蓋野(VTA) や青斑核 (LC) に由来するドーパミン (DA) を想定し、その機構解明を行った。2つの投射先である海馬では、とりわけ認知を司る背側部領域 (dHC) でDA代謝及び神経活動の増加を確認した。(実験1-1)。また、ASX摂取とLETとの併用による海馬認知機能の相乗的な増強効果に対する脳由来レプチン (LEP) の関与を明らかにした (Yook et al., PNAS, 2019)。この作用機序を詳細に検討すべく、培養細胞を用いた研究に新たに着手し、その実験環境を確立した。(実験1-3)。 プロジェクト2では運動が健常高齢者の海馬に与える影響に関して、一過性(実験2-1)、及び慢性(実験2-2)の効果を検証する。今年度は、データ収集の完了した健常高齢者に対する長期間の運動介入実験のデータ解析を行った。 プロジェクト3では、病態モデル動物に対する運動とASXの併用効果検証を行った(実験3-1)。アルツハイマー病モデル動物であるApp NL-G-Fマウスに対し、4週間の低強度運動ならびにASX摂取を課した。その結果、App NL-G-Fで低下していた海馬機能や神経新生の低下は運動およびASXの併用により改善することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
プロジェクト1では、認知機能を高める運動条件 (LET) の神経機構として、VTAやLCからdHPCへ投射するDA作動性神経が新たに想定された。すでに我々はDA作動性神経を選択的に抑制することが可能なDREADDシステムを導入している。運動時にDA作動性神経を抑制し、海馬認知機能への影響を検討する実験が進行中である (実験1-1)。さらに、ASXの神経保護作用を培養細胞用いて検討する研究環境が整備され、LEP発現への効果を確認しており、次年度の進展が期待できる (実験1-3)。 プロジェクト2では、実験2-2について、昨年度にデータ収集の完了した健常高齢者に対する長期間の運動介入実験についてデータ解析を行い、有酸素能、血中指標については仮説通りの結果を得た。現在、研究分担者の根本、Yassaと共に海馬とその周辺領域のMRIデータ(体積、安静時ネットワーク等)について詳細な解析を進めている。ヒトにおける運動とASX摂取の併用効果(実験2-3)については、ヒトの栄養実験用の設備構築(食品用サプリメント混合用ブース等)を完了させ、次年度から本格的に実験実施できる。 プロジェクト3では、アルツハイマー病モデル動物に対し、運動とASXの併用効果の検討を開始した。認知課題や神経の可塑性に関して、運動とASXの併用効果の有用性が確認できており、次年度移行メカニズム解明に向けた実験に移行できる。
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今後の研究の推進方策 |
プロジェクト1では、dHPCへ投射するVTAやLCのDA作動性神経機構に着目し、一過性もしくは長期的な運動時にこの機構をDREADDによって不活性化した場合、海馬適応効果にどのような影響が生じるか検討する。運動時や認知課題時にはマイクロダイアリシスによるDA代謝及びin vivo電気生理を用いた神経活動のリアルタイム評価を行い、詳細なメカニズム解明を目指す。加えて、次年度も継続してASX摂取が神経保護作用に及ぼす効果を培養細胞で検討し、ASX摂取による海馬適応効果の解明を目指す。 プロジェクト2において、健常高齢者に対する長期間のLET運動介入実験(3ヶ月)をまとめ、論文化を目指す(実験2-2)。実験2―1については、高解像度fMRIを用いて10分間のLETが高齢者の海馬機能を向上させるか検証する。実験2-3は運動とASX摂取の併用効果がヒトの海馬機能を高めるか明らかにする。最適な摂取用量について検証したのち、一過性のLET+ASXの併用効果について健常若齢成人を対象に検証を行う。 プロジェクト3では、アルツハイマー病モデルであるApp NL-G-Fマウスおよび統合失調症モデルであるPCP連投マウスに対する運動およびASX併用効果の解明に向け、神経病理学的評価 (免疫組織化学染色によるAβやリン酸化タウの評価)、分子生物学的評価 (ウエスタンブロッティング法による各種神経伝達物質受容体の発現量や下流のシグナル活性の定量) を実施や遺伝子発現の網羅的解析を行う。
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