研究課題/領域番号 |
18H04083
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
増木 静江 信州大学, 学術研究院医学系, 教授 (70422699)
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研究分担者 |
森川 真悠子 信州大学, 先鋭領域融合研究群バイオメディカル研究所, 助教(特定雇用) (10596068)
能勢 博 信州大学, 医学部, 特任教授 (40128715)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 最高酸素摂取量 / 認知機能 / 脳血流 / 乳製品 / インターバル速歩 |
研究実績の概要 |
体力は20歳代をピークとし、30歳以降10歳加齢するごとに5-10%低下する。この体力低下が20歳代の30%以下になると認知症の発症率が非常に増加することから、最近「加齢による体力低下が認知症の原因の一つ」と考えられている。実際、我々は中高齢者において、5ヵ月間のインターバル速歩によって体力が向上すると認知機能が改善することを明らかにした。しかし、そのメカニズムは不明である。本研究では、中高年者における、1)体力の向上が脳血流を改善して認知機能を改善する、という仮説を検証し、2)これらの反応を高めるための効果的な「運動+栄養摂取」法を開発することを目的とした。
H30年度までの実績:パイロット実験で、カウントダウンによる自転車運動開始時には脳血流の増加に続いて、心拍数が増加するが、その反応の程度は、体力(最高酸素摂取量)と比例するという結果を得ていたが、例数を増やしてその結果を確認した。すなわち、認知機能と自発運動開始時の循環応答が密接に関連する可能性を明らかにした(論文投稿準備中)。 R元年度の実績:上記、横断的研究の結果に基づき、自転車運動トレーニングによる体力向上は、カウントダウンによる自発的自転車運動開始時の脳血流、心拍数の増加を亢進するか、という仮説を引き続き検証した。その結果、2か月間のインターバル速歩によって最高酸素摂取量が増加すると頸動脈コンプライアンスが増加し、脳血流量の増加を示唆する結果を得た。さらに、トレーニング時に乳製品を摂取すると、それらの反応が亢進する可能性を示唆する結果を得た。 以上は実験室研究だが、この結果をフィールド研究に応用するため、中高年者を対象に心拍数計と加速度計を一体化させた携帯型測定装置を用い、自発的「歩行」開始時の心拍数の上昇が最高酸素摂取量と比例するという仮説の横断的検証研究を開始した。その結果、この仮説を支持する結果を得つつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
運動トレーニングによる体力(最高酸素摂取量)向上が脳血流を改善し認知機能を改善すること、運動トレーニング中に乳製品を摂取させると、それらの反応が亢進する可能性があること、を示唆する結果を得た。さらに、最高酸素摂取量の向上は認知機能だけでなく排尿機能も改善する可能性があることを示唆する結果を得た。これらの結果は当初の仮説を支持するだけでなくその範囲を超えて体力向上の重要性を示唆するものであり、ほぼ順調に研究が進展していると考えている。さらに、心拍数計と加速度計を一体化させた装置を用いて、自発的「歩行」運動開始時の心拍数の上昇が最高酸素摂取量と比例するという結果は、この装置を現在すでに開発済みの「インターバル速歩」アプリに連動させることによって、当初目的とした認知機能を簡便にスクリーニングできるアプリ開発に大きく近づいた、と考えている。このように、当初の計画から実際の状況に応じて若干の変更はあるが、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後解決すべき主な課題としては、次の2つである。 1)高齢者における運動トレーニングによる脳血流増加が認知機能を亢進することを実験室実験で明らかにすること:現在までに、中高年男性16名(年齢50歳以上)を無作為に、1)対照群(6名)、2)自転車運動群(5名)、3)自転車運動+乳製品摂取併用群(5名)の3群に分け、8週間の介入を行い、上記の結果を得た。今後さらに、例数を増やし検出力を上げることが必要である。さらに、脳血流増加と浦上式認知症簡易スクリーニング検査による結果の関係についても解析が必要である。 2)フィールドで利用できる認知機能の評価とその機能を改善するためのセルフマネージメントアプリを開発すること:現在行われている認知機能スクリーニング検査は15点満点中12点以下を軽度認知障害と判定しているため測定精度がよくない。したがって、いわゆる健常な中高年者の認知機能の改善を評価できる、それも携帯端末で評価できる手法の開発が必要である。それを用いて、大勢の中高年者においてフィールドで、自発運動開始時の心拍応答から(最高酸素摂取量と)認知機能との関係が明らかになれば、認知症予防のためのセルフマネージメントアプリの開発が可能になる。
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