研究課題/領域番号 |
18H04084
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中野 珠実 大阪大学, 生命機能研究科, 准教授 (90589201)
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研究分担者 |
黄田 育宏 国立研究開発法人情報通信研究機構, 脳情報通信融合研究センター脳機能解析研究室, 主任研究員 (60374716)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 自発性瞬目 / 瞳孔径 / 自律神経 |
研究実績の概要 |
自発性の瞬きに伴って、脳内ネットワークの活動交替と同時に、自律神経の活動交替が生じるという発見(Nakano & Kuriyama, 2017 Int. J. PsychoPhysiol.)を基に、瞬きや瞳孔径の自発的な活動変化と、脳の活動交替が関連する認知の変化、特に多義図形の知覚交替現象との関係を精査した。その結果、知覚交替の数秒前に、瞳孔径が一時的に縮小するという自律神経系の活動が大きく変化していることを発見した。このような自律神経活動の変化は、物理的な知覚交替では全く生じていなかった。つまり、自律神経の活動変化に現れる覚醒度の変化が、脳の自発的な活動にも変化を引き起こし、内発的な知覚交替を引き起こすと推測される。末梢の自律神経は、交感神経系と副交感神経系から二重の支配を受けている。そこで、どちらの神経系がこの現象に関与しているかを明らかにするために、散瞳を引き起こす点眼薬を用いて、末梢の交感神経系と副交感神経系の経路をブロックしたときに、知覚交替直前の瞳孔縮小現象がどのような影響を受けるかを調べた。その結果、末梢の副交感神経系をブロックしたときにだけ、この縮小現象が消失することを発見した。瞳孔径を調整する副交感神経系はEdinger-Westphal核(動眼神経副交感神経核)からの入力を受けているが、このEW核への中枢神経からの入力が関係していることが推測される。さらに、知覚交替直前の瞳孔収縮と脳波の関係を調べたところ、前頭葉のデルタ波の活動が有意な相関を示したことから、比較的ゆっくりとした脳活動が、生体の覚醒度の変化と関係している可能性が視された。今後は、脳内ネットワークの動的な活動変化や自発的な身体活動を調整している脳の神経機構を明らかにすることで、生体のホメオスタシスを司る神経機序の解明に挑む。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多義図形の見えの交替に関わる自律神経系の一過性の活動変化の神経機序を明らかにするために、瞳孔の末梢筋の活動を2種類の点眼薬を用いる薬理実験と脳活動計測を組み合わせる研究を行った。具体的には、交感神経支配の瞳孔散大筋、ならびに副交感神経支配の瞳孔括約筋を、それぞれα1受容体刺激薬、アセチルコリン受容体遮断薬を用いて、中枢からの信号が伝わらないような状態にして、瞳孔径の変化を調べた。その結果、自発的な知覚交替を引き起こす脳活動の変化が、末梢の副交感神経系を介して瞳孔径を変化させていることを発見した。
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今後の研究の推進方策 |
瞬きや瞳孔といった自発的な身体活動の変化と脳内ネットワークの動的制御の相互作用や、これらの制御をしている神経機序を明らかにするために、脳活動計測に薬理実験を組み合わせる新たな研究計画を追加し、複雑な自律神経系がどのように脳内ネットワークの動的制御と相互作用しているか、その全体像を明らかにしていく。
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