研究課題/領域番号 |
18H04090
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
渡辺 治 東京工業大学, その他, 理事・副学長 (80158617)
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研究分担者 |
伊東 利哉 東京工業大学, 情報理工学院, 教授 (20184674)
天野 一幸 群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (30282031)
玉置 卓 兵庫県立大学, 社会情報科学部, 准教授 (40432413)
森 立平 東京工業大学, 情報理工学院, 助教 (60732857)
平原 秀一 国立情報学研究所, 情報学プリンシプル研究系, 助教 (80848440)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 多項式時間階層 / 平均時計算困難性 / 計算論的暗号 / PAC学習困難性 |
研究実績の概要 |
これまでの研究の中から最小記述量計算問題の計算困難さに関連する様々な結果が出始めてきたが,本年度は,それをさらに進めて,最小記述量計算問題をコルモゴロフ記述量ならびに機械学習可能性(正確にはPAC学習複雑度)と関連付け,それにより,NP問題全般(あるいはもう少し広い多項式時間階層,クラスPH)の平均時複雑度へ関連付ける研究を進めた。その中で得られた結果のうちで主要なものを以下に述べる。 1.多項式時間階層クラスPHの平均時計算複雑度を小記述長問題の最悪時計算複雑度により特徴づけることに成功した。その結果として,PHに対する困難性増幅定理を得た。たとえば,PHの代表的な問題に対して,その1%の入力が効率的に解けることとPHのすべての問題に対して,その99%の入力が効率的に解けることが同値であることがわかった。 2.PHの最悪時計算複雑度を平均時計算複雑度に結び付ける重要な手法の一つに,PHの最悪時計算困難性をもとに計算論的暗号素(computationally secure cryptographic primitive)を作り出す手法が考えられる。しかし,そのような手法は,通常の計算論的解析(より正確には,black-box的な並列乱択還元を用いた解析)では不可能であることを示した。その証明においては,PHの構造的困難さ(より正確には密でない集合への還元可能性)について,既存の特徴づけを大幅に改良する特徴づけを与える技法を開発した。 3.従来の学習の枠組みならびに暗号の枠組みを拡張することにより,(その枠組みの上での)PAC学習困難性と計算論的暗号素の構成可能性間の同値性を示すことができた。なお,これは本研究課題でRAとして雇用している博士課程学生の独自研究である。 4.3SAT問題に対して,指数関数時間ではあるが(その時点での)世界最速の乱択アルゴリズムを得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題の主目標である最小記述量の計算複雑さに関連する学習困難性と計算論的暗号素の存在性をNPやPHなど、代表的な計算量クラスに対する平均時計算困難性に結び付ける手がかりを得ることができたため。また、博士課程学生を含め、若手研究者が活発に研究し、これらの成果を挙げていることについても大変期待が持てるため。
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今後の研究の推進方策 |
機械学習(とくにPAC学習)は,最小記述量計算問題の変形の一つと見ることができる。本年度の成果により,そのPAC学習の困難さの計算論的な特徴づけをかなり明確にすることができた。来年度は,これをさらに進めて,より明確で,より直接的な特徴づけを得ることを目指す。それには、最小記述量の代表例であるコルモゴロフ複雑度の計算との関係が重要となると思われる。また,より具体的な対象を用いた問題の計算複雑さの研究,さらには具体的な計算困難問題からの一方向関数の構成について,より明確な関係の解明を目指す。以上により,本研究課題において目指した最小記述量の計算困難さを中心に,一方向関数や機械学習可能性のより深い意味での関連について,統一的な解釈にいくらかでも近づけるような結果を最終年度のとりまとめとして得ることを目指す。
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