マルチスペクトル光源と分光放射計を組み合わせた実験装置を駆使することで、様々な分光分布を有する多様な色刺激を作成し、多面的に5つの光受容体の色覚への効果の定量化・定式化をさらに推進した。三種の錐体、杆体、メラノプシン(ipRGC)の分光感度は波長帯域においてオーバーラップしているため、特定の単色光(スペクトル)で5種の光受容体を独立に制御することは原理的に不可能であるが、五種類の光受容体、即ち、L錐体、M錐体、S錐体、杆体、メラノプシンの刺激量を個別に増減できる実験用プログラムをさらに改良し、中心窩のみならず網膜周辺における色知覚ならびにグレア知覚に関する実験とそのメカニズムの解明を進めた。また、眼光学系の個人差を考慮する際にipRGCや杆体に対しても黄斑色素の影響を加味する手法を改善して実験の精緻化を実現し、個人差の影響を排除した。その結果、中心視における5元色覚メカニズムを定式化し、エレメンタルカラースケーリングの結果を五種類の光受容体応答量で説明するとともに、これが色知覚における個人差にも影響することを示した。またこれまでの周辺色覚特性では説明できない中心窩と網膜周辺で極端に色の見えが異なる色光が、網膜位置による五種類の光受容体の視感度の違いによって生じることや、不快グレアにメラノプシンが与える影響を定量化し、中心視と周辺視の色覚の統合モデルを検討した。また、色覚異常者(二色覚)の色の見えにおける杆体とメラノプシンの寄与についても実験的に検討した結果、色覚異常者においても杆体とメラノプシンが色覚に影響することを示した。さらに、カスタムメイドの光学フィルタを設計し、複数のプロジェクタと組み合わせて2次元分光表示システムを開発し、杆体とメラノプシンが質感知覚にも影響することを示した。
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