研究課題/領域番号 |
18H04129
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
見延 庄士郎 北海道大学, 理学研究院, 教授 (70219707)
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研究分担者 |
重光 雅仁 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(海洋観測研究センター), 研究員 (20511695)
纐纈 慎也 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(海洋観測研究センター), 主任研究員 (30421887)
小埜 恒夫 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産資源研究所(清水), グループ長 (40371786)
佐々木 克徳 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (50604815)
安中 さやか 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(海洋観測研究センター), 研究員 (80620393)
相田 真希 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(地球表層システム研究センター), グループリーダー (90463091)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 海洋貧酸素化 / 地球温暖化 / 海洋溶存酸素 / プランクトン / 底魚 |
研究実績の概要 |
Argoデータの解析から全球における亜表層水塊の収支を明らかにした。この収支をもとに亜表層栄養塩の季節変化の解析を行い、年間の供給に対し冬季の混合が果たす役割の評価を行った。過去のデータを広く集め統合することで、北太平洋表層栄養塩・全炭酸濃度の季節・経年変動を統一的に明らかにした。北太平洋の等密度面上の溶存酸素減少トレンドについて解析を行い、26.6σθ―27.2σθの密度面で有意な溶存酸素濃度の減少トレンドを見出した。特にオホーツク海南部とアリューシャン列島南岸で減少トレンドが顕著である。溶存有機物(難分解性と易分解性)およびバクテリアを導入した物質循環モデルを構築した。また超長期温暖化実験を行う準備を整えた。COCO-NEMUROによる1958年~2018年の結果から、北太平洋亜寒帯域西部と東部では異なった生物応答が見られた。特に親潮域における動植物プランクトン量の変化について観測値と比較検証したところ、クロロフィルaと動物プランクトンは1990年代まではPDOと相関していたが2000年代以降はPDOと有意な関係が認められなかった。日本海浅海域における貧酸素化進行状況に関する解析結果をとりまとめ、論文として刊行した。日本海浅海域の主要水産魚種であるマダイ、タチウオ、ヒラメ、ムシガレイ、ソウハチ、ケンサキイカ等の貧酸素耐性情報の収集を開始した。また初めて北太平洋の東部と西部の生態系指標の総合解析を過去半世紀について行い、特に底魚の減少が共通して明瞭であり、その一因として海洋貧酸素化の影響を指摘した論文を出版した。本論文は2022年発行のIPCC第六次評価報告書(WG2)で引用され国際的にも高い評価を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Argoのデータ解析から物理的循環パラメータの推定を進め、昨年度までに行った物質分布場と組み合わせる準備が整った。表層栄養塩濃度の広域分布特性を、ほぼ予定通りのスケジュールで明らかにすることができた。1950年~2010年において北太平洋の等密度面上の溶存酸素減少トレンドについて解析を行った。またこの成果について、2020年度日本海洋学会秋季大会で口頭発表をした。数値モデルについても当初予定したCMIP5/6の解析は順調に進展している。魚への影響では、当初の解析対象海域であった三陸沖大陸棚における水産対象種の貧酸素耐性情報の収集は前年度までに終了している。前年度までの解析の結果、新たな貧酸素海域として発見された日本海沿岸域における水産対象種の貧酸素耐性情報の収集も開始した。さらに上記の北太平洋の東西を初めて総合した生態系指標解析から、底魚が広域的に減少傾向を持つことを明らかにして、その一因に海洋貧酸素化を指摘し、IPCC第六次評価報告書(WG2)で引用されたことは、本研究がすでに国際的な影響力を発揮している証左であり、また当初の想定を越えた成果である。
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今後の研究の推進方策 |
物質分布の変化を高精度でとらえる海盆スケール観測の解析(インド洋)・準備(北太平洋)をArgoの解析と並行して進め長期変化やこれまでの推定の検証を行い、より確からしい変化の記述に努める。亜表層の酸素変動と密接に関連する、亜表層クロロフィルa濃度の広域分布を調べる。北太平洋の等密度面上の溶存酸素減少トレンドのメカニズムについて、移流の影響や飽和酸素量の変化、見かけの酸素消費量の変化などをより詳細に検討する。溶存有機物(難分解性と易分解性)およびバクテリアを導入した物質循環モデルの超長期温暖化実験を実施し、その結果を解析する。北太平洋における物理的環境と生物応答について、2000年代以降の低次生態系の変化は、これまでのPDOを指標とした解釈では説明できないことが数値実験および観測結果から示唆された。1990年代以前と2000年代以降において、何が大きく異なっているのか、亜寒帯海域東西における生物変化とその物理的背景について検証を進める。CMIP6において基礎実験のみならず、変動の原因推定に有益な、いくつかのModel Inter-Comparison実験データを入手し、過去変動の原因をそれらの実験結果で説明できるかどうかを調査する。日本海沿岸域における貧酸素化減少の発生要因を解析する。日本海沿岸域における水産対象種の分布水深の経年的変化を解析し、酸素濃度変動との関連の有無を検討する。
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