研究課題/領域番号 |
18H04130
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山中 康裕 北海道大学, 地球環境科学研究院, 教授 (40242177)
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研究分担者 |
平田 貴文 北海道大学, 地球環境科学研究院, 特任准教授 (80576231)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 植物プランクトン / 海洋大循環モデル / 亜表層クロロフィル極大 |
研究実績の概要 |
本研究では植物プランクトン次世代多様性モデルを新たに開発し、数値実験によって植物プランクトンの気候変動に対する適応過程や多様性の変化を明らかにする。開発された植物プランクトン12サイズモデルでは栄養塩分布が時間と共に現実海洋の分布からずれていく為、数年間しか計算が出来なかった。よって、今年度は長期間の安定した計算を行う事を目的として、栄養塩循環過程の改良とパラメーターのチューニングを行った。これらの作業をより効率的に進めるために、植物プランクトン1サイズモデルを新たに開発している。鉄循環に関しては、海底からの供給過程を新たに加えた。また、植物プランクトンの炭素と鉄の取り込み比を可変にし、鉄が不足する海域では鉄の取り込み量が少なくなるように改良した。これらの改良とチューニングによって硝酸塩と鉄の濃度分布が安定した状態で20年以上計算を行うことが可能になった。 改良・チューニングが終了した植物プランクトン1サイズモデル、12サイズモデルの計算結果を我々グループの既存型モデル(MEM)の結果と比較した。海表面のクロロフィル分布は従来モデルに対して、顕著な改善がみられた。太平洋の赤道域は既存モデルを用いるとクロロフィル濃度が高い海域が現実より広範囲に分布する問題があったが、新たなモデルでは現実とほぼ同じ分布が再現された。北大西洋高緯度域に関しても、従来モデルではクロロフィル濃度が低すぎた問題が改善されている。また、クロロフィル鉛直分布の再現性についても大きな改善が見られた。観測ではクロロフィルは表層ではなく亜表層で最大値を取る事が良く知られおり、亜表層クロロフィル極大と呼ばれている。亜表層クロロフィル極大は亜熱帯では深度100m以下に分布し、亜寒帯では40m近辺に存在する。我々のモデルは、この緯度による亜表層クロロフィル極大深度の変化を世界で初めて再現することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
植物プランクトンモデルの改良・チューニングは順調に進み、栄養塩の分布が安定した状態で20年以上計算を行うことが可能になった。本年度に行った、栄養塩循環過程の改良とチューニングはモデルの構築の中で最も時間を要する箇所であるが、硝酸塩と鉄の双方で観測の推定値に近い値を維持した状態で長期間の計算が可能となった。 改良・チューニングが終了した植物プランクトン1サイズモデル、12サイズモデルで再現された、クロロフィル分布が観測とより良く一致するようになった。これを受けて、既存型モデル(MEM)との比較を前倒しして開始した。当初計画では、既存型モデルとの比較は、数百種を表現する多様性モデルを構築した後に予定していた。 本モデルは計算時間がかかるので、北海道大学の情報基盤センターの大型計算機を利用している。今年度は大型計算機のリプレイスがあり、数ヶ月間大型計算機が使えなかった上、システムが一新されたことによってプログラムの移植作業が必要になった。それなりの時間を要したが、情報基盤センターの協力によって移植作業は完了している。新たな大型計算機を用いた場合の計算時間や費用に関するデータを取得し、研究計画で予定していた実験を十二分にこなせることを確認した。 また、当初計画では予想していなかった成果が得られている。亜表層クロロフィル極大深度の緯度による変化を3次元の数値モデルで再現したのは世界で初めてである。
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今後の研究の推進方策 |
今年度、計画の時点では予想していなかった新たな発見があったので、来年度の研究計画を変更する。当初計画では、植物プランクトン数百種を表す多様性モデルを用いて現在気候実験を行い、既存型モデルとの比較を行う予定であった。これは、多様な植物プランクトン種を表現することで、モデルの再現性が向上するという作業仮説に基づいている。しかし、今年度にサイズが1つしかない(植物プランクトン1種)モデルを構築した結果、この1種モデルですら、我々グループの従来モデルであるMEM(植物プランクトン2種)と比べて、クロロフィルの海表面分布・鉛直分布の再現性が遥かに良くなるということが判明した。来年度は、何故このような再現性の向上が生じたのか詳細に調べる。新しいモデルと既存型モデルでは植物プランクトンの成長速度を決める式に違いがあり、この差が再現性の違いに影響していると現在考えている。新しいモデルでは海洋の環境に応じて植物プランクトンが細胞内の色素(クロロフィル)量を変化させる適応メカニズムが導入されており、これが植物プランクトンの成長を通じて両モデルの結果に違いを生じている可能性がある。全ての海域で新しいモデルと従来型モデルに差がある訳では無く、両者の結果が比較的一致する海域も存在するので、海域毎に解析を行う必要がある。
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