研究実績の概要 |
地球の全海水の40%を占める南極底層水は熱と物質の巨大な貯留槽であり、全地球の気候システムや長期の気候変動の鍵を握る。しかし、南大洋では海洋観測船を用いての困難な観測や極寒の気象条件による制約のため、観測データが時空間的に離散的で乏しい。このため、本申請は、地球の気候システムの重要因子に与える「南極底層水を含めた南大洋において、海洋酸性化は現在どのように進んでいるのか?」、「海洋酸性化はどのぐらいの時空間規模で変化しつつあるか?」という地球環境問題の最大の課題の問いに答えることを目指す。 2020年度は以下の項目を実施した。 ●研究項目(3)「南大洋における準リアルタイムな炭酸系物質のマッピング」:項目(2)で得られた炭酸系物質(DIC, Alk, pH)ならびに硝酸塩のパラメタリゼーションを、南緯30度以南の南大洋に展開している自動海洋観測ロボット(中層プロファイリングフロート等)400体から得た20000鉛直分布データに適用し、南大洋の時空間的に詳細な準リアルタイムの炭酸系物質ならびに硝酸塩の分布を明らかにした。●研究項目(4):南大洋におけるpHと人為起源CO2の時間変動の把握:上記パラメタリゼーションを基盤に、南大洋に展開する自動海洋観測ロボットデータに得られた炭酸系物質データ群、ならびに定点観測点の時系列高精度のデータ群より得られた炭酸系物質データ群を統合し、同海域全域にわたり緯度経度1度格子・水深6000mまで100m毎のpHとその原因である人為起源CO2の時系列変動解析を行った。この結果、南大洋の海洋酸性化の詳細な分布を明らかにし、南大洋では広い範囲で海洋酸性化が0.004pH/yearで進み、全海洋平均値の2倍も速く進行していることを明らかにした。また、その原因としては、南大洋に取り込まれる人為起源CO2が全海洋の40%も吸収していることを明らかにした。
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