研究課題/領域番号 |
18H04135
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
三谷 啓志 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (70181922)
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研究分担者 |
尾田 正二 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (50266714)
小賀 厚徳 山口大学, 大学院医学系研究科, 准教授 (90243633)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | メダカ / 低線量率放射線 / 炎症 / 遊泳行動 / 精巣 / 赤血球 |
研究実績の概要 |
京都大学放射線生物研究センターにおいてメダカ成魚の低線量率長期間照射実験(100 mGy/ 7 days)を実施した。その結果、照射終了一週間後に、照射個体の血中赤血球において核の形態異常と細胞死が誘導されることを見出した。低線量率の長期放射線被ばくにより、造血プロセスにおいて細胞生理的な影響が誘導されていることが強く示唆されたといえる。 照射終了一週間後に、横断面全身切片を作製して組織影響を評価した。放射線被ばくによって胸腺の細胞増殖が増加していたほか、エラにおいては血管の浮腫、精巣においてはB型精原細胞の細胞死とB型精原細胞数の著明な減少が誘導された。また、腎臓近傍の静脈血管内において異常核(micro nuclei)を持つ赤血球の数が増加することをHE染色像においても確認し、先の赤血球での知見を切片像でも確認できた。それら以外の組織臓器においては組織像の異常を認めなかった。 全身よりRNAを抽出し、RNAシーケンス解析を行ない発現変動遺伝子をリスト化した。成魚の精巣内生殖細胞を分離して、シングルセル遺伝子発現データ解析を行なったが、生殖細胞の回収率と生存率にばらつきが見られた。そのため、細胞分離方法の検討、遺伝子発現方法 の検討および細胞回収評価実験を行なった。その結果、精子形成過程における遺伝子の発現パターンの変化を捉えることが可能となった。また、雄性生殖細胞の初期分化段階から精子分化までの細胞集団に特徴的な遺伝子発現が明らかになった。 ビデオカメラのデジタル映像をPCに取り込みMPG4形式の動画ファイルに変換する超長時間録画システムを使用して、照射期間中連続してメダカ遊泳行動を撮影する方法を開発した。デジタル映像を記録することによって、コピーの作成と事後での再生が非常に容易となり、映像の数値解析に道が開かれた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
京都大学放射線生物研究センターでの低線量率放射照射実験のための条件を整えることができ、複数回の実験で当初予定していたサンプリングを行うことができた。遺伝子発現解析から、全身にわたる組織学変化の観察を実施、また、遊泳行動解析に必要なデータの収集も可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
京都大学放射線生物研究センターの低線量率ガンマ線照射装置(共同利用)を用いて、7日間連続のガンマ線を低線量率照射実験を実施し、メダカ成魚への低線量率ガンマ線の長期照射の間に遊泳行動を連続ビデオ撮影しする。メダカ行動トラッキング装置を用いて遊泳行動を数値化し解析する。遊泳行動解析には、画像データーのさらなる向上が必要と考えられるので、照射中の撮影条件検討が必要と思われる。 低線量率ガンマ線を照射したメダカのRNAseq によるトランスクリプトーム解析を実施する。全身RNAの解析結果からパスウェイ解析を行い、低線量率放射線の影響をとらえる。また、脳、肝臓、腎臓、精巣、筋の5組織についても同様の解析を実施する。放射線応答が明確な精巣を用いてのシングルセル遺伝子発現解析を行い細胞種ごとの分化、増殖を比較し、放射線応答を同定する。 低線量率照射後の全身組織切片像を作製し、デジタルイメージであるバーチャルスライドとしてインターネットで公開する。
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