研究課題/領域番号 |
18H04137
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
関島 恒夫 新潟大学, 自然科学系, 教授 (10300964)
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研究分担者 |
鈴木 一輝 新潟大学, 研究推進機構, 助教 (40801775)
原田 直樹 新潟大学, 自然科学系, 教授 (50452066)
大西 浩史 群馬大学, 大学院保健学研究科, 教授 (70334125)
関島 香代子 新潟大学, 医歯学系, 准教授 (90323972)
吉川 夏樹 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (90447615)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 水田生物群集 / 流域内動態 / 土壌微生物 / ヒト / 健康影響 / 中枢神経系 |
研究実績の概要 |
以下に、サブテーマごとの研究実績の概要を紹介する。 S1;クロチアニジンなどネオニコチノイド殺虫剤を水田メソコスムに曝露し、殺虫剤が食物網の形成プロセスに与える影響を解析した。 S2;水田に施用されたネオニコチノイド系殺虫剤の環境水中の挙動を明らかにし、流域内における汚染リスクを評価するため、(1)調査流域を設定し、(2)殺虫剤の施用状況を流域内のすべての水田で把握し、(3)主要排水路において採水および濃度測定をするとともに、(4)排水路を模した実験水路において、殺虫剤成分の挙動と流出特性に関する実験を行った。 S3;小ポットを用いて水稲栽培実験を行い、各種ネオニコチノイド系農薬の土壌施用後7週目以降に土壌原生生物数・細菌叢が影響を受けた可能性を見出した。また、土壌中のこれらの農薬の定量法を確立した。今後、各種ネオニコチノイド系農薬が土壌微生物叢に与える影響をより直接的に検討するとともに、確立した定量法を用いてこれら農薬の湛水土壌における光分解や微生物分解、水稲への移行プロセスを追跡する。 S4;ネオニコチノイド系殺虫剤のヒトへの健康影響が重大と考えられる胎児期・乳児期の汚染状態を捉える上で、人を対象とした研究に向けて、所属施設の「人を対象とした倫理審査」の承認を得る必要がある。受審に向けて、研究チームとして適切な方法を立案すべく、最新のエビデンスを把握し、研究メンバーと検討を進めた。 S5;予備実験として、妊娠マウスにネオニコチノイド系殺虫剤のクロチアニジンを投与し、産仔数、生育への検討を行った。妊娠2日目-出生後2週間まで投与したが、産仔数や仔の体重に関して薬剤暴露の顕著な影響は認められず、表面上は正常な生育がみられたが、高濃度暴露群で流産が一例認められた。流産の原因は明らかではないが、農薬暴露の影響について胎仔期と生後生育期授乳期を区別した解析の必要性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下に、サブテーマごとの進捗状況を紹介する。 S1;クロチアニジン、カルタップの2種類の殺虫剤を水田メソコスムに投入し、水田食物網構造に与える影響を評価した。いずれの殺虫剤曝露区においてもユスリカなど一部の生物種で急性毒性が観察されたことに加え、対照区である殺虫剤無処理区と大きく異なる生物群集が形成された。 S2;現地調査では、対象流域の約30%の水田でネオニコチノイド系殺虫剤が使用されていることが明らかになった。主要水路における排水のサンプリング・濃度分析の結果、田植え直後に濃度が高く徐々に低下するが、8月の空中散布によって、田植え直後の3倍程度の濃度の殺虫剤成分が検出された。環境水中への影響が大きいのは空中散布であることが明らかになった。 S3;クロチアニジン、イミダクロプリド、ジノテフランの3種の農薬を試験対象とし、小ポットを用いた水稲の栽培実験を実施した。農薬の施用量は実施用量の1倍および5倍量として、水稲移植後1、2、4、7週後の土壌原生生物数・細菌叢を検討した。その結果、7週目以降に原生生物数・細菌叢ともに影響を受けた可能性が示唆された。また、土壌中のこれらの農薬の定量法(HPLC)を確立した。 S4;ネオニコチノイド系殺虫剤のヒトへの健康影響に関する最新の知見を収集し、研究メンバーとディスカッションを重ねた。ヒトに対する脳神経系への影響が重大と考えられる胎児期、乳児期の汚染状態を捉えるために、生体指標として尿(妊娠期女性、乳児)、母乳を設定し、それらを採取する手法、時期、調査内容等を検討した。 S5;予備的検討で設定した中濃度、高濃度のクロチアニジンの投与でマウスが一見正常に発生し生育することを確認できた。一方で、高濃度のクロチアニジン投与群に認められた流産については今後注意が必要であると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
以下に、サブテーマごとの進捗方策を紹介する。 S1;炭素および窒素安定同位体比分析により、無処理区と殺虫剤曝露区の水田メソコスム内に形成される食物網構造を明らかにし、処理間の比較を通し、殺虫剤の曝露影響を評価する。併せて、食物網を形成する各栄養段階の生物の殺虫剤蓄積量を測定することにより、生物濃縮の可能性を検証する。 S2;環境水への影響を明らかにするため、流域内の殺虫剤成分の動態を再現する数値モデルを構築することを目的に、水田―排水路―河川の流出機構を観測によって把握する。2019年度は、対象流域の3区画の水田において重点的に観測を実施し、物質および水収支をおさえるとともに、排水路における殺虫剤成分の負荷量を年間を通じて観測する。これらの結果に基づいて、モデルを試作し、その妥当性を検証する。 S3;水稲を除いた湛水土壌の長期培養試験を実施し、各種農薬が土壌原生生物及び細菌叢に与える影響をより直接的に検討する。原生生物についてはアメーバ、鞭毛虫、繊毛虫それぞれの各種農薬に対する半数致死量を明らかにする。また、確立した定量法を用いてこれら農薬の湛水土壌における光分解や微生物分解、水稲への移行プロセスを追跡し、代謝経路を調べる。水稲の部位別農薬濃度を測定した後、葉面の細菌及び糸状菌叢を検討する。 S4;所属施設の「人を対象とする研究等倫理審査委員会」を受審し承認を得た後、研究協力施設を調整し、研究対象者の募集を進める。対象者からのサンプリングとともに、試料提供者の食生活に係るアンケートを実施する。 S5;胎仔期のネオニコチノイド暴露に焦点を絞り、出生後・成熟後の神経系に与える影響の解析を行う。その際、新生仔を里親に育仔をさせ、農薬暴露が母体の育仔行動変化を介して仔の神経系発達に与える影響を排除する。新生仔および成熟後の中枢神経系で、トランスクリプトーム解析、組織学的解析を進める。
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