研究課題
本研究ではグリーランド氷床コアを用いて最終氷期の急激な気候変動イベントであるDOイベントを詳細に解析することで、過去に地球システムが臨界点を超えた際の温暖化の速度、温暖化と連動した陸域・海洋・大気の変化、陸域・海洋・大気の変化の速度、さらに気候が安定していた時代との違いを解明することを目的として、研究を進めている。完新世は最終氷期と異なり、気候が比較的安定している。しかし、過去数百年を見た場合、北極域では20世紀前半に温暖な時期があったことが知られている。また、1990年代から急速な温暖化が進行している。最終氷期の急激な気候変動との比較のため、このように過去数百年の間に生じた温暖化の実態と、温暖化に伴う環境変動を把握する必要がある。そのため、本年度は、グリーンランドのEGRIP地点で掘削した浅層氷床コアの分析を開始した。高時間分解能の連続データを得るため、氷床コア連続融解分析システム(CFAシステム)を用いた分析を行う必要がある。浅層コアから角柱状のサンプルを切りだし、これをCFAシステムの融解部で融解し、CFAシステムの融解部に接続した水同位体比分析計で水の安定同位体比を、固体微粒子分析計でダストを、Single Particle Soot Photometer(SP2)でブラックカーボンを、ICP質量分析計で元素分析を実施した。また、CFAシステムで分注した不融解水の一部を用いてコールターカウンターによるダスト分析を開始した。さらに、走査型電子顕微鏡(SEM)とSEMに接続したエネルギー分散型エックス線分析装置(EDS)で融解水の一部を分析し、鉱物ダスト粒子の成分と粒径の分析を開始した。EGRIP深層氷床コアの分析については、スイスのベルン大学で実施した国際共同CFAキャンペーンにおいて国立極地研究所が担当したブラックカーボン分析によって得られたデータを解析した。
2: おおむね順調に進展している
新型コロナウィルスの影響で一時、研究に遅れが生じたが、予算の繰り越しが承認されたことで、CFAシステムによるEGRIPの浅層氷床コアの水の安定同位体比分析、固体微粒子分析、ブラックカーボン分析、ICP質量分析計による8元素の分析を実施することができ、良質のデータを取得することができた。また、CFAシステムで分注した融解水の一部を用いたコールターカウンターによる固体微粒子分析、SEM-EDSによる鉱物分析も順調に進展した。さらに、スイスのベルン大学で実施したEGRIP深層コアの国際共同CFA分析キャンペーンにおいて取得したブラックカーボンの分析データの解析も行うことができた。このように、2020年度内に実施する予定だった研究をすべて実施することができた。
本研究では、最終氷期のDOイベントを詳細かつ総合的に研究するため、EGRIP浅層氷床コアの分析と、ベルン大学におけるEGRIP深層氷床コアの国際共同CFAキャンペーンによる分析に加えて、EGRIP深層氷床コアからDOイベント9-11に対応する氷床コアを切り出して、日本に輸送し、国立極地研究所で分析する。EGRIP浅層コアと同様にCFAシステムによる水の安定同位体比、ブラックカーボン、ダスト、8元素の分析を行う。また、CFAシステムによって分注した融解水の一部を用いてコールターカウンターによるダストの詳細分析を実施する。融解水の一部は、スイスのベルン大学、カナダのマニトバ大学、イタリアのベニス大学の共同研究者に送付し、固体微粒子、水銀、ハロゲン成分の分析を行う。ベルン大学における国際共同CFAキャンペーンで取得したEGRIP深層氷床コアの分析データとEGRIP深層氷床コアのDOイベント9-11の分析データを、EGRIP浅層氷床コアやSIGM-D浅層氷床コアコアの分析データと比較して総合的に解析することで、氷期の温暖化に伴う環境変化とその速度、さらに気候が安定していた時代との違いを解明する。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 4件)
Polar Science
巻: 27 ページ: 100597~100597
10.1016/j.polar.2020.100597
巻: 27 ページ: 100557~100557
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10.1016/j.polar.2020.100568
Atmospheric Measurement Techniques
巻: 13 ページ: 6703~6731
10.5194/amt-13-6703-2020