研究課題/領域番号 |
18H04148
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
横山 正 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 名誉教授 (70313286)
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研究分担者 |
山形 洋平 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (40230338)
吉田 誠 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (30447510)
伴 琢也 東京農工大学, 農学部, 准教授 (20325046)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 放射性Csの可溶化 / 新規生物相関 / 黒麹菌 / カリウム溶解菌 / 担子菌 / 菌根菌 / イネと共生する糸状菌 |
研究実績の概要 |
福島県の放射性Cs汚染農地の除染は、ヒマワリ等を用いた植物除染の効果が発揮できず、物理的な表層土壌のはぎ取り法が主流となった。また、放射性Csは年々雲母類に強く固定され、植物がさらに吸収しづらくなっている。私たちは、カリウム溶解菌等が分泌する有機酸で、放射性Csが可溶化されること、また、菌根菌は土壌中の放射性Csを根へ運ぶこと等も確認した。そこで、植物に上記の土壌微生物が持つ有用機能を連結できれば、福島の農地からの放射性Cs除染は生物相関の利用で可能ではないかと考えた。H30年度は、土壌に強固定した放射性Csを可溶化する生物の探索として、①「放射性Csを化給化する菌体外クエン酸産生量を指標とした黒麹菌の探索」において、菌株保存期間から複数の黒麹菌を入手し、菌体外クエン酸産生量を指標とした評価を行いクエン酸高生産株1株見いだした。それをコムギふすま等で増殖させ放射性Cs汚染土壌に接種し、モンスターライス1号と2号を栽培した。その結果、黒麹菌の接種は、栽培後の土壌の交換性Cs量を明瞭に低下させるた。②「放射性Cs高吸収を指標とした担子菌の探索」においては、木材腐朽菌である5種の担子菌を約2ヶ月間ウッドチップとコムギふすまを混和した培地で培養し、生成した菌体を放射性Cs汚染土壌に接種しモンスターライス1号と2号を栽培した。その結果、木材腐朽菌の接種は木材腐朽菌が放射性Csを集積し、イネへの移行は明瞭に抑制され、黒麹菌と木材腐朽菌の接種は、放射性Csのイネへの移行に関して全く反対の応答を示すことが分かった。③「カリウム溶解菌の探索」では、福島県の異なる水稲品種の根圏土壌を用い、カリウムを含まない培地に絹雲母の粉末を混ぜ寒天培地を作成し、絹雲母を溶解して生育してくる菌株を約100株単離し、カリウムとリンの溶解能力に基づき8株を選抜した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
土壌に強く固定された放射性Csの可給化に関しては、クエン酸を大量に菌体外に生成する黒麹菌、シュウ酸を菌体外に放出する担子菌が発見されれば、土壌からの放射性Csの可給化に関しては完成すると考えていた。黒麹菌に関してはクエン酸生成によりイネ栽培後の交換性Cs量が減少し、土壌から放射性Csを遊離させていることが分かったが、期待していた担子菌に関しては、今回は木材腐朽菌を複数種使って、土壌中の放射性Csをイネへ移行させ実証を行う予定だったが、驚かされたが、木材腐朽菌は自分自身に放射性Csを溜め込み、イネへは移行させないことが分かった。上記糸状菌類の土壌への接種は、コムギふすまを主体とする培養基質で可能となったが、担子菌類の接種においてウッドチップが培養基質に含まれており、土壌のCN比の関連で、窒素飢餓が生じることもわかり、施用時に尿素等の窒素肥料の施用が必要なことも分かった。カリウム溶解菌に関しては、福島県二本松市の水田で栽培した異なる品種のイネから複数の菌株が得られ、カリウム溶解能が高い10種の菌株を取得できた。また、イネへ放射性Csを輸送する糸状菌の探索で、異なる農業環境から、それらの作物や樹木等に共生する菌類の探索を農工大の府中農場で行い、ナシ園からAltenaria属,ブルーベリー園からPochonia bulbillosa,Clonostachys属,Acremonium属,Trichoderma属,Penicillium属、ハクサイからAltenaria属,タマネギからTrichoderma属,イネからCylindrocarpon属とClonostachys属の糸状菌が単離できた。このように、機能別に各種微生物の探索は進んでおり、担子菌の放射性Cs取り込み特性で予想外の結果が出て、それに関しては若干遅れ気味ではあるが研究は進捗していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
黒麹菌に関しては、クエン酸生産能をさらに上昇させた株の選抜と、福島の冷涼な気候の土壌中でも活発に活動可能な菌株の選抜を進める。また、土壌に固着したセシウムを如何に効率よく可給化させるかという点で、シュウ酸を分泌する木材腐朽菌等の担子菌の利用は重要と考える。H30年度にはガンマー線を照射して褐色腐朽菌のシュウ酸合成能を改変し、土壌に固着したセシウムを遊離させ、それによってセシウムを効率よく菌類に取り込ませることが可能かどうかを評価したが、シュウ酸生産能力を増強した菌株は得られなかった。今後は、木材腐朽菌は放射性Csをよく吸収し、自己の菌体に強く取り込むが、そのような取り込み能力を抑制して、他の生物に放射性Csを吸収させることが可能な変異体のスクリーニングが必要であると考えている。それとともに、木材腐朽菌以外の担子菌で、高い放射性Cs化給可能を有し、周りの生物へ放射性Csを供給可能な担子菌のさらなる評価が必要である。「菌糸輸送システムと連結し放射性Csを集積する植物系の構築」に関しては、イネの根に連結して放射性Csや無機元素の輸送が可能な糸状菌やアーバスキュラー菌根菌(AM菌)の探索とイネの根への連結の検証を進める必要がある。そのため、酸性環境で菌糸ネットを形成するAM菌を探索するため、日本各地の酸性の草地等から土壌やススキ等の野草根を採取し接種源としてイネと数ヶ月共栽培し、土壌中にAM菌胞子を増殖させ、水中篩別法等で単離する。得られたAM菌胞子をクエン酸やシュウ酸酸性下の放射性Csを含有する滅菌褐色森林土に混和し小型ポットに充填後、イネを播種・栽培し、イネの根や茎葉部の放射性Cs量を無接種区のそれと比較する。また、新規に福島県やその他地域の林床上部のリターや農地土壌、堆肥等を接種源として、イネ種子を30日程度栽培し、根を表面殺菌後破砕し、根に内生している糸状菌の単離を進める。
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