ハイドロゲル基材の膨潤圧力によって密着固定するカフ型のゲル電極の開発を行い、動物実験まで進んだ。カフ型電極は、迷走神経に巻付いて密着し、電気パルス刺激によって、てんかん発作の抑制やうつ症状の緩和などの治療効果を発揮する長期埋込型デバイスである。ハイドロゲル基材には、ゲル化反応におけるサイズ変化が比較的小さいポリビニルアルコール(PVA)を用い、電極材料には、独自開発の有機電極(PEDOT-PU)を用いた。ブタでの刺激効果の検証を想定し、直径2mmの棒(ヒトもほぼ同じ太さである)で、ゲル形状の設計を行った。サイズの異なるPVAゲルシート2枚の貼り合わせによって生じる内部応力を利用することで「巻付き」を実現した。直径2mmの棒に巻付いたゲルに対して2軸の引張試験を行い、固定力の定量評価を行い、自重の数倍の力の印加でもズレないことが示された。一方、巻付き圧力を計測するための2mm太さの棒型の圧力センサを開発して、貼り合わせで生じる内部応力の値と巻付き圧力との関連を整理した。1.3KPa以上の負荷があると神経障害の可能性が生じるのに対し、ゲルシートが発揮する膨潤圧力は300Pa程度であり、固定には十分でありながら、余裕をもって安全であることも確かめられた。東北大学病院の脳神経外科のグループの協力を得て、ブタによる一連の刺激実験を行ったところ、パルス印加時に副交感神経に特有である心臓の拍動数の低下が確認され、適切な迷走神経刺激が行えていることが示唆された。サーモカメラによる観察の結果、問題となる程度の発熱が通電によって生じることは無かった。さらに実用化に向けて、神経への設置を容易にするための工夫が必要だと分かった。乾燥状態で神経下に差し込み、水分で膨潤して巻付くタイプの変形を検討することになった。
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