研究課題/領域番号 |
18H04159
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
田中 徹 東北大学, 医工学研究科, 教授 (40417382)
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研究分担者 |
福島 誉史 東北大学, 工学研究科, 准教授 (10374969)
木野 久志 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 助教 (10633406)
富田 浩史 岩手大学, 理工学部, 教授 (40302088)
清山 浩司 長崎総合科学大学, 工学研究科, 准教授 (60412722)
菅野 江里子 岩手大学, 理工学部, 准教授 (70375210)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 生体医工学 / 医用システム / 人工視覚 / 三次元集積回路 |
研究実績の概要 |
本研究は失明患者の視覚を工学的手法で再建する人工網膜を開発する。光電変換素子・視覚情報処理回路・刺激電流生成回路を積層した複数個の三次元積層人工網膜チップをフレキシブル基板上に高密度集積する。それを網膜の中心窩及びその周辺部に完全埋植することで現在の単チップ埋植の4倍以上の視野角を実現する。 (1)人工網膜回路設計・試作:広視野角を得るために2.5mm角・9チップ搭載を目指して人工網膜回路の設計試作を行った。これまでの3mm角・4チップ搭載より1000ピクセル以上増加する。チップ選択回路も実装し、広視野角と低消費電力動作を両立できた。また、エッジ強調後の非動作ピクセルの完全停止回路を改良し、動作判別のしきい値を調整可能にした。エッジの鮮明化と低消費電力化が可能になった。 (2)積層化・マルチチップフレキシブル人工網膜作製:複数個の人工網膜チップを生体適合性フレキシブル材料に集積・内蔵するFOWLPベース実装プロセス技術を開発している。フレキシブル基板上の金属配線は曲げ応力による断線が懸念されるが、金配線の一部を周期的に基板から剥離する皺状金配線による解決を提案し、繰り返し曲げ信頼性が向上することを実証した。また、複数チップ搭載では熱応力低減のため200℃以下の低温プロセスが望ましい。OER-TEOSを用いて150℃のTSV低温作製に成功し、良好な電気特性を得た。 (3)細胞・動物実験評価:人工網膜チップの光変換感度向上と刺激電流による細胞ダメージ低減を両立するために透明刺激電極を開発している。単層で電気特性を取得するため、フォトダイオードを有する視覚情報処理・刺激電流生成チップ上に透明刺激電極を作製した。AlやBをドープしたZnO電極を実チップに成膜することに成功しているが、チップ接触抵抗が大きいという問題が発生しており、コンタクトホールの形成プロセス最適化を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)人工網膜回路設計・試作:3mm角人工網膜チップを4チップ搭載して広視野角を実現する方式に加えて、更に広い視野角を得るために2.5mm角・9チップ搭載を目指して人工網膜回路の設計と試作を行った。1チップのピクセル数は減少するが、9チップ搭載により全体で1000ピクセル以上増加する。チップ選択回路も実装し、広視野角と低消費電力動作を両立できるようになった。また、エッジ強調後の非動作ピクセルの完全停止回路を改良し、動作判別のしきい値を調整可能にした。これによりエッジの鮮明化と更なる低消費電力化が可能になった。 (2)積層化・マルチチップフレキシブル人工網膜作製:複数の人工網膜チップをPDMSやゲル等のフレキシブル材料中に内蔵して集積化するFOWLPベースの実装プロセス技術の開発を進めた。フレキシブル基板上の金属配線は曲げ応力による断線が懸念される。この問題に対して、金配線の一部を周期的に基板から少し剥離する皺状金配線を提案し、作製に成功した。繰り返し曲げ信頼性が向上することも実証した。また、マルチチップ搭載では熱応力低減のために200℃以下での低温プロセスが望ましい。OER-TEOSを用いたTSVの低温プロセス開発を行い、150℃での低温作製に成功し、良好な電気特性を得た。 (3)細胞・動物実験評価:人工網膜チップの光変換感度向上と刺激電流密度の低下による細胞ダメージ低減を両立するために透明刺激電極を開発している。今年度は、単層で電気特性を評価することを目的として、フォトダイオードを有する視覚情報処理・刺激電流生成チップ上に透明刺激電極を作製した。前年度に材料評価を完了しているAlやBをドープしたZnO電極を実チップに成膜することに成功している。チップとの接触抵抗が大きいという問題が発生しており、コンタクトホールの形成プロセス最適化を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究によってマルチチップフレキシブル人工網膜の医用システムとしての完成度を向上させ本格的前臨床試験の足がかりとする。 (1)人工網膜回路設計・試作:明暗感度対応・二値化視覚情報処理回路、及び発熱補償・供給電力補償・刺激電流補償・起動補償等の安全保障回路を含む2.5mm角人工網膜チップを開発する。また、マルチチップ回路動作を評価し、広視野角人工網膜チップ設計を完成する。 (2)積層化・マルチチップフレキシブル人工網膜作製:全ピクセル動作を実現する高歩留まり三次元積層プロセス技術を開発する。また、フレキシブル基板上に複数個の積層チップを高密度一括集積するプロセス技術を開発する。これらのプロセス技術を用いて広視野角のフレキシブル人工網膜プロトタイプを作製し、電気特性評価を行う。 (3)細胞・動物実験評価:透明刺激電極及び金属刺激電極を実装した人工網膜チップに関して信頼性評価を行い、マルチチップフレキシブル人工網膜の長期安全性を確立する。また、人工網膜チップモジュールを作製して動物実験を行い、機能評価及び行動評価を行う。
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