研究課題/領域番号 |
18H04161
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐久間 一郎 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (50178597)
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研究分担者 |
本荘 晴朗 名古屋大学, 環境医学研究所, 准教授 (70262912)
中沢 一雄 森ノ宮医療大学, 保健医療学部, 教授 (50198058)
芦原 貴司 滋賀医科大学, 医学部, 講師 (80396259)
山崎 正俊 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任研究員 (30627328)
富井 直輝 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 助教 (00803602)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 生体制御・治療 / 心房細動 / カテーテルアブレーション / スクロール / 光学マッピング |
研究実績の概要 |
心筋細胞の電気生理学的特性や解剖学的特徴によって規定される興奮波面の破綻によって渦巻き型旋回興奮波(スパイラル・リエントリー:SW)が形成され、心房細動や心室細 動などの重篤な不整脈が発生することが報告されている。近年、心臓の複雑な興奮を蛍光シグナルとして観察する光学マッピングの技術が進み、生体心におけるSWの可視化に成功している。しかし、SWの制御は困難を極め、未だ確立された手法は存在しない。本研究では、我々が一貫して取り組んできた光学マッピング・2次元シミュレーション研究の結果たどり着いた画期的なSW制御手法の開発につながる位相分散解析技術を発展させ、臨床応用するための技術基盤を構築することを目標とする。加速する高齢化とストレス社会の中で、爆発的に増加する心房細動患者や致死性心室性不整脈による心臓突然死を大幅に減らすことに貢献できると確信している。具体的には今年度で①-③を実施する。
① 臨床電気生理検査で実際に使用される電極から得られたデータと、光学マッピングの同時記録を試み、局所電位情報の集合である電極マッピング情報から心臓電気現象の時空間的な位相情報を抽出するにはどのような信号処理手法が求められるのか検討する。② 記録された局所電位あるいは光学マッピングから得られる位相分散/累積位相分散マップを比較し、心筋内を移動(さまよい運動)するSWの存在領域を特定することが可能であるかの評価を行う。③ SW存在領域・通過経路を適切に遮断ないし修飾することで重篤な不整脈(心房細動・心室細動)を治療することが可能か?」、「治療の標的とすべき領域はいかなる特徴を有するのか?」を解決する基盤情報を取得する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①ウサギ心室における光学・多電極同時マッピングシステムの構築とウサギ2次元心室頻拍/細動モデルでの評価:光学と電極の同時マッピングを実施するには、光学マッピングの視野を遮ることのない多電極マッピングシステムの作成が必須である。我々は同問題を解決するために、心表面に20極の電極を配置することが可能なtissue bathを自作し、ウサギ2次元心室頻拍/細動モデルで誘発した心室頻拍/細動中の興奮様式を観察した。20極の電極から得られた電極信号は臨床で使用されるExTRa Mapping(多電極から得られたデータから興奮様式を表示するシステム)の解析ソフトを使用して興奮様式を描出した。光学マッピングにおいて、渦巻き型旋回興奮波(スパイラル・リエントリー:SW)を駆動源として維持される心室頻拍/細動が観察された。また、同時記録で解析した電極記録から作成した興奮様式も同様のSWによって維持されていることが確認された。予定を上回る進捗状況で有り、上記の結果を日本生体医工学会誌と国際学術誌に投稿予定で準備中である。
②ウサギ圧負荷心房細動モデルでの光学電極同時マッピング:①の実験が順調で、同時記録マッピングシステムの信頼性も高いことが証明されたため、翌年度以降予定していたブタ圧負荷心房細動モデルにおける光学・電極同時記録の予備実験を前倒しで開始した。
③動物実験による検討の進展と比較して、コンピュータシミュレーションによるSW停止戦略検討は若干の遅れがある。現状、3次元心房形態のモデリングが終了し、同モデルに線維方向を組み込む段階にある。
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今後の研究の推進方策 |
多電極マッピングシステムを用いた心房細動・心室細動の興奮様式同定の試みは、光学・電極同時マッピングシステム構築が順調であることから予想以上に進展している。今年度から渦巻き型旋回興奮波(SW)の停止を目標として、我々が掲げる「SWの存在領域・通過経路を適切に遮断もしくは修飾することが心房細動・心室細動を停止させる」という仮説の検証実験(大型動物)を実施していくことを研究の本体とする。
① 申請者らは、独自に開発した解析システム(位相分散解析)を用いて、心筋組織内局所での位相のばらつきを示す位相分散という全く新しい指標を提案した。前記を用いることで、「さまよい運動する複雑なSWの追跡が可能であること(Tomii et al. IEEE Trans.2015)」、「SWがさまよい運動をする領域と、位相分散が高い領域の間に相関性があること」等を報告している。位相分散値が高値の領域を描出することで、より有効な高周波通電焼灼領域の決定が可能になると考えている。 ②更に、心房細動・心室細動を駆動するSWを停止に導く低侵襲治療法を報告(Tomii et al. Am J Physiol2018)している。同理論と位相分散解析の結果を応用し臨床応用可能な治療法を確立することを目指し、心筋局所冷却その他の手法を用いた細動停止装置の試作機作成も同時に進捗させる。 ③現在投稿準備中の光学・電極同時マッピング構築に関する国内論文、更に、光学と電極の同時マッピングから得られた興奮様式比較の結果を主体にした国際誌投稿論文を完成させる。予備実験の結果、ブタ圧負荷心房細動において、比較的安定したSWによって心房細動が維持されることが観察されたが、今後は詳細なデータ解析を進めつつリモデリングの進展した持続性心房細動モデルの作成にも着手し、得られた結果を国際学会で報告していく。
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