研究課題
2018年度までに、(1)マウス骨髄や肺における血小板産生時の乱流(動きが不規則に絶えず変動している乱れた状態の流体)が生体巨核球の成熟過程およびその後の血小板産生・放出に大きく関与すること、(2)ヒトiPS細胞から作製した巨核球細胞株imMKCLでは、血小板産生のための巨核球の細胞膜切断にNardilysin (NRDC)が関与することを明らかにした(Cell, 2018)。そこで細胞膜を構成する脂質二重膜リポゾームを抽出し、NRDCのエンドペプチダーゼ活性依存的なリポゾーム膜変形作用、切断作用を生化学的に証明し、NRDCの切断関与を確認した。次に、NRDC欠失imMKCLおよびNRDC欠失マウスモデルの解析を行い、血小板産生のための巨核球細胞膜切断機構がNRDC以外の分子が関与する新知見を見出した。本発見をもとに次年度の計画を作成した。一方、乱流の本体である乱流エネルギーをセンシングするメカニズムに関し、巨核球の成熟過程における時系列RNA sequencingを実施し、候補となる4つの分子を同定した。2018年に発表した乱流エネルギー、剪断ずり応力の最適な数値は8Lスケールまでの範囲では普遍的であった。これが50Lスケールまで拡大した後も普遍性を維持しているかを確認し、2018年Cellで示した2つの物理パラメーターの数値が最適であることを証明した。以上から、生体内での非常に高い効率で血小板産生する普遍的な物理条件を決定できる目処がたった。以上の結果をもとに最終目標である1個の巨核球あたり800-1000個の血小板産生効率の達成に向けた新規のバイオリアクターの試作設計を開始した。
2: おおむね順調に進展している
普遍的な血小板産生メカニズムの解明とその基盤を用いた新規のバイオリクターシステム開発を提案しており、2018年度の論文発表に引き続く補充的なデータの取得に関し、順調に進捗したと考えられる。その一つは、巨核球細胞膜の不均一性を明らかにし、膜切断様式の多様性の可能性を発見したこと、さらに、巨核球の成熟スイッチが乱流エネルギーであり、そのセンシングシステムが機能していることなど、いずれも世界初の知見を集積しつつある。
(1)imMKCLの成熟仮定でのRNA sequencingデータから乱流エネルギーのセンシングに関与すると考えられる受容体候補を4つ見出したため、これらの4つの遺伝子を個別に欠失させたimMKCLを作製し、乱流エネルギーのセンシングおよびその後の巨核球の成熟過程である細胞膜リモデリングの分子メカニズムの詳細を調べる。(2)Nardilysin (NRDC)以外の膜切断酵素を明らかにする。NRDC欠失時、代償的に作用する膜切断酵素が存在することが示唆された新発見をベースに血小板産生システムの根源的メカニズムを明らかにする。(3)巨核球の成熟過程の多様性を考慮したリアクター設計とその再構成実験を通じて、生体内での高い血小板造血効率の普遍的な法則を明らかにしていく。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件)
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