研究課題/領域番号 |
18H04165
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
武田 和行 京都大学, 理学研究科, 准教授 (20379308)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | MRI / オプトメカニクス |
研究実績の概要 |
MRIは非破壊検査、医療現場における診断等に威力を発揮しており、もはや現代の医療には欠かせない。ただし、撮像の感度は決して満足できるものとはいえない。MRI画像は、撮像対象物に含まれる原子核の磁気モーメント(核スピン)のダイナミクスによって生じるラジオ波を検出・解析して原子の空間分布に関する情報を画像化することで得られている。ところが一般的に、ラジオ波の検出感度は決して高いとは言えない。MRI撮像をもっと高感度にできれば、短時間での撮像が可能になる。また、感度は撮像の空間分解能に対してもボトルネックとなっている。すなわち、分解能を上げるため撮像のボクセルサイズを小さくすることは可能であるが、各ボクセルに含まれる原子核数が減少する分撮像の感度が落ち、撮像には長時間を要するか、あるいは撮像そのものが不可能になってしまう。実施者は最近、オプトメカニクスを利用したラジオ波の光変換実験を、核磁気共鳴(NMR)に適用することに成功した。 本研究の最終的な目標はMRI信号を光に変換して検出するとともに、感度の優位性を示すことで、将来的に医用MRIにも適用可能であることを提案することにある。そのために、平成30年度は従来の手法によるMRI撮像を行うことができる環境を整える作業に従事した。開発には、所属研究室が所有する、内径70mm・磁場値4.7テスラの超電導電磁石を用いた。この磁場値におけるMRIの信号周波数である200MHz帯域でMRI信号を取得するために、200MHz帯域共振回路の設計と製作・傾斜磁場コイルの設計と製作・傾斜磁場電流駆動回路の開発・MRI実験送受信機の製作を行った。用いる超電導電磁石のサイズと均一磁場領域を考慮して、ターゲットとする撮像対象のサイズは20mm球に収まるものとし、まずは通常の手法を用いて、ファントム・標本・果実を対象とするMRI撮像を行うことに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は、通常のMRI撮像実験を行うことが出来るようにすることを目標として、励起・検出共振回路、傾斜磁場コイル、電流ドライバ、等の装置開発を行ってきた。実際、これらの機器を試行錯誤を繰り返しながら開発して、水を満たした試験管や果実のプロトンMRI断層撮像実験を行うことに成功したため、年度の目標を達成することができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
薄膜キャパシタをラジオ波信号-光変換器の主要部品として動作させる際には、空気分子による薄膜振動の減衰を避けるために、薄膜を真空下に置く必要がある。以前製作した薄膜キャパシタにおいては、薄膜そのものは5ミリメートル角サイズであったが、薄膜を収める真空チャンバーのサイズは200×200×200ミリメートルもあり、サイズは薄膜よりもはるかに大きかった。一方で、MRI信号の光変換の効率を最適化するためには、光検出の要である薄膜を極力測定試料に近づけて、信号伝達の過程で避けられない環境への散逸を最小限に抑えなければならない。すなわち、真空状態に置かれた薄膜を直径70mmの超電導電磁石の内部に配置可能でなければならない。 そのために今後は、光学窓を備えた超小型ラジオ波-光変換器の開発を行う。薄膜はキャパシタの電極と光共振器のミラーの2役を担い、MRI信号(電気信号)を機械振動に変換し、さらに光共振器の特性を変調させることによって搬送光に信号を伝達する。光共振器の構築のためには、精密な共振器ミラーの光学的アラインメントが要求される。またプローブに組み込まれた際には、装置の振動が共振器に伝播してはならない。光共振器の光路長を短くすればするほどに、ミラーの向きの誤差の影響を小さくできる。したがってできるだけ小さく作る。また、光共振器はNMRプローブ内部において、リジッドに固定はせずに、サスペンションを用いて支持することによって振動が伝わるのを防ぐ。このために、設計・共振器ミラーの位置角度調整機構の製作・性能評価・必要に応じて再設計を実施する。
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