研究課題/領域番号 |
18H04170
|
研究機関 | 公益財団法人川崎市産業振興財団(ナノ医療イノベーションセンター) |
研究代表者 |
片岡 一則 公益財団法人川崎市産業振興財団(ナノ医療イノベーションセンター), ナノ医療イノベーションセンター, センター長 (00130245)
|
研究分担者 |
Cabral Horacio 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (10533911)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | ドラッグデリバリーシステム / がん免疫療法 / 脳腫瘍 / 高分子ミセル / タンパク質デリバリー / 免疫チェックポイント阻害剤 / 血液脳腫瘍関門 / リガンド分子 |
研究実績の概要 |
免疫チェックポイントのPD-1/PD-L1経路を阻害する抗体を用いたがん免疫療法は、悪性脳腫瘍に対して有効性を示せていないが、これは、脳腫瘍が形成する血液脳腫瘍関門を抗体医薬が透過できないためであると考えられる。本研究では、全身投与の経路で抗体医薬を悪性脳腫瘍に効率的に送達できる高分子ミセル型ナノキャリアを構築する。本年度は、まず、免疫チェックポイント阻害剤として抗PD-L1抗体アベルマブを選別し、そのFab'フラグメント(αPD-L1-Fab')を遺伝子工学的に調製する手法を最適化した。得られたα-PD-L1-Fab'は、優れた熱安定性と抗原認識能を備えていた。また、それと並行して、Fab'フラグメント送達に向けた高分子ミセルの構築に取り組んだ。具体的には、高分子ミセルの構成材料として、ポリエチレングリコールと架橋構造を有するポリカチオンを連結したブロック共重合体を合成したほか、電荷反転技術で負電荷を持たせたFab'フラグメントとそのブロック共重合体の静電相互作用を利用してFab'フラグメント内包高分子ミセルを得た。得られた高分子ミセルは、粒径が100 nm以下で表面電荷が中性付近であるなど、脳腫瘍の標的に適した物性を兼ね備えており、高分子ミセルの表面にグルコース分子を標識することで、高分子ミセルの脳集積性を高められることを確認している。さらに、当初の計画から発展して、抗体自体を脳腫瘍内に送達するためのナノキャリアの構築にも挑戦した。具体的には、抗体に対して脳腫瘍内の還元環境下で切断されるジスルフィド結合を介してグルコース分子を末端に有するポリエチレングリコール(Glc-PEG)を結合させることで脳内に抗体を効率的に送達することに成功している。以上のように、初年度からin vitroおよびin vivo評価に進むなど、当初の計画を前倒しする形で成果を得ている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
免疫チェックポイント阻害抗体のFab'フラグメントの調製やFab'フラグメント送達用の高分子ミセルの構築について、次のような特筆すべき成果を得た。 1) αPD-L1-Fab'を遺伝子工学的に調製する手法を最適化した。得られたαPD-L1-Fab'は優れた熱安定性と抗原認識能を兼ね備えていた。 2) 高分子ミセルの材料となるポリエチレングリコール-ポリカチオンブロック共重合体を合成し、電荷反転技術で負電荷を持たせたFab'フラグメントとの静電相互作用を利用してFab'フラグメント内包高分子ミセルを調製した。得られた高分子ミセルは粒径が100 nm以下でかつ表面電荷が中性付近であり、生体内投与に適した物性を兼ね備えていた。 3) Fab'フラグメント内包高分子ミセルの表面にグルコース分子を適切な密度で修飾することにより、高分子ミセルの脳集積性を高めることに成功した。この結果により、当初計画していた環状RGDペプチドに加えて、グルコース分子も脳腫瘍の標的に利用できる可能性が示唆された。 4) 抗体自体を脳腫瘍内に送達するためのナノキャリアを構築した。具体的には、抗体に対してジスルフィド結合を介してGlc-PEGを修飾することにより、抗体を脳内に効率的に送達することに成功した。脳腫瘍内に到達したナノキャリアは、脳腫瘍内の還元環境でジスルフィド結合が切断されることにより抗体を放出すると期待される。 以上のように、初年度のうちに既にin vivoの評価に進むとともに、その結果得られた知見を新たなナノキャリアの構築に応用するなど、当初の計画を上回る進捗が得られている。
|
今後の研究の推進方策 |
「8. 現在までの進捗状況」に記したように、本研究は当初の計画以上に進展している。従って、今後の研究については、当初の計画を前倒しし、下記のような計画で進める予定である。 1) 前年度に構築した高分子ミセルにαPD-L1-Fab'を内包し、その調製条件と物性の最適化に取り組む。具体的には、αPD-L1-Fab'に電荷反転処理を施すことで負電荷を持たせ、前年度と同様の方法で高分子ミセルに内包し、コアを構成するポリカチオン鎖に脳腫瘍内の還元環境または弱酸性環境で切断される架橋構造を導入することで、血中安定性と脳腫瘍内におけるαPD-L1-Fab'放出性の両方を具有する高分子ミセルを得る。 2) 得られたαPD-L1-Fab'内包高分子ミセルのPD-L1阻害活性をin vitroおよびin vivoで確認する。具体的には、高分子ミセルから放出されたαPD-L1-Fab'のPD-L1抗原親和性、PD-L1を過剰発現する脳腫瘍細胞との相互作用、脳腫瘍内局所投与によるPD-1/PD-L1経路の阻害活性と抗腫瘍効果などの評価を行う予定である。 3) 静脈内投与に向けて、環状RGDペプチドあるいはグルコース分子を表面に修飾したαPD-L1-Fab'内包高分子ミセルを調製し、脳腫瘍に対する標的性の評価を行う。 4) 前年度構築したGlc-PEG修飾抗体の技術をアベルマブに応用することで、アベルマブを脳腫瘍内に送達することを試みる。具体的には、Glc-PEG修飾アベルマブの還元環境応答性や放出されるアベルマブの抗原親和性の評価を進めるとともに、悪性脳腫瘍の同所移植モデルを用いた脳腫瘍標的性の最適化およびアベルマブの脳腫瘍内分布の評価などに取り組む予定である。
|