研究課題/領域番号 |
18H05206
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
吉田 滋 千葉大学, 大学院理学研究院, 教授 (00272518)
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研究分担者 |
石原 安野 千葉大学, 大学院理学研究院, 教授 (40568929)
永井 遼 千葉大学, 大学院理学研究院, 特任助教 (00801672)
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研究期間 (年度) |
2018-04-23 – 2023-03-31
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キーワード | ニュートリノ / 宇宙線 / 南極 / 素粒子実験 |
研究実績の概要 |
IceCube-Gen2 のフェーズ1実験の主要検出器である D-Egg の 第二弾 (Batch 2-3) の製作を終了した。100台の検出器の組み立てと動作試験を完遂し、低温環境化での負荷試験に供する準備を整えている。低温負荷試験は南極に出荷する検出器を選別し、その性能を確認するための大規模試験であり、FAT(Final Acceptance Test)と呼ばれる。大型冷凍庫を用い、一度に多数の検出器を試験可能とする自動システムを構築した。本番のデータ収集システムとほぼ同一のシステムによる光子検出効率、荷電・時間分解能、雑音頻度、線形応答性など多岐にわたる測定項目を試験することができる。FATの推敲は次年度の主要課題である。
超高エネルギーニュートリノの高精度探索も続行し、6 ペタ電子ボルトものエネルギーを持つニュートリノカスケード事象の同定に成功した。波形情報を用いた追加解析によって、この信号は、反電子ニュートリノがグラショウ共鳴によって氷河中の電子と衝突した事象であることが判明した。素粒子物理標準理論で予測されていながら実証できなかった素粒子反応を初めて観測したことになり、素粒子物理に対するインパクトをもたらす結果である。さらにニュートリノ天文学の観点からは、高エネルギー宇宙ニュートリノ束の中に反電子ニュートリノが存在することを明らかにし、将来の精密観測によって超高エネルギー宇宙線放射機構をニュートリノによって解き明かす新たな情報軸ができたことを意味する。この結果は Nature に発表した。
IceCube 実験で発見され測定されている100 TeV 以上のエネルギーをもつ高エネルギー宇宙ニュートリノのエネルギー流量が超高エネルギー宇宙線のエネルギー流量とほぼ同じであることから、両者が同じ天体を起源として共有している可能性について検討し結果をPRDに出版した。このシナリオはマルチメッセンジャー観測によって探査できる。来年度から研究を開始する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナ感染症による遅延は防げなかったが、検出器製作は様々な技術的問題を克服して batch2-3 の製作終了にまで至っており、研究計画に沿って進捗できている。また反電子ニュートリノの発見は、予定にはなかった大きな成果であり、超高エネルギー帯における宇宙ニュートリノ探索を新手法を取り入れながら強力に推進してきた努力が実ったと言える。
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今後の研究の推進方策 |
D-Egg 検出器の最終バッチ(Batch 3) 動作試験を行う。また製作した全てのD-Egg検出器に対してFAT試験を開始し、南極出荷の準備を開始する。またIceCube-Gen2 用次世代検出器プロトタイプの開発も開始する。この検出器もD-Eggと共に南極に埋設される予定である。
超高エネルギー帯域におけるニュートリノ探索を引き続き遂行するとともに、マルチメッセンジャー天文学を開拓する新しい宇宙ニュートリノ同定チャンネルの開発も今年度より開始する。ある一定期間内に2事象以上のニュートリノが同方向から飛来した場合にアラートを出す、「マルチプレット」と呼ばれる手法を追求し、フォローアップ観測による対応天体同定の確率を大幅に上げることが目標である。
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