研究課題/領域番号 |
18H05209
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
八島 栄次 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (50191101)
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研究分担者 |
前田 勝浩 金沢大学, ナノ生命科学研究所, 教授 (90303669)
逢坂 直樹 名古屋大学, 工学研究科, 講師 (80726331) [辞退]
高野 敦志 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (00236241)
土方 優 名古屋大学, トランスフォーマティブ生命分子研究所, 特任助教 (70622562)
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研究期間 (年度) |
2018-04-23 – 2023-03-31
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キーワード | ラセン高分子 / キラリティ / 不斉触媒 / 光学分割 / 物質送達 |
研究実績の概要 |
記憶力を有するラセン高分子の特長を最大限に活用し、生体系では実現不可能な究極機能の開拓を目指し、以下に示す成果を得た。 1. 記憶力を有するポリ(ビフェニルイルアセチレン)誘導体(poly-1)の構造をX線構造解析で13/5ラセンと決定し、その持続長の置換基効果や溶媒依存性を調べ、構造・物性と溶媒が及ぼす記憶力との相関関係を解明した。 2. Poly-1のラセン誘起には大過剰の光学活性体と長時間が必要であった。様々の試行錯誤を経て、微量の光学活性アミノ酸塩(0.1当量)を用いると、短時間に一方向巻きのラセン構造の誘起と記憶が可能であることを見出し、極微量(0.005当量)のアミノ酸のキラリティ検出にも成功した。より効率的な溶出順序可変キラルカラムの作成に繋がる成果と言える。 3. ポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体(poly-2)にもラセン構造の誘起と記憶が可能であることを実証し、poly-2がアセチルアセトナート錯体に対して完璧な不斉選択性を示し、一度の吸脱着で光学的に純粋な鏡像体(最大で>99% ee)を得ることに成功した。ラセン構造を記憶したpoly-2を塗布した濾紙が、多くのキラルアミンに対しても優れた不斉識別能を示し、鏡像体間で異なる色を示すキラル試験紙(キラルリトマス紙)として機能しうることも実証した。 4. ボロン酸ヘリケートを高分子化する過程で、ポルフィリン含有ヘリケートのラセン空孔が極めて高い不斉識別能を有し、少量の水と酸存在下、低温でデラセミ化することを見出した。 5. シンジオタクチックポリメタクリル酸メチル(st-PMMA)のラセン空孔に、フラーレンを末端に有する様々のアキラル高分子や脂肪族炭化水素、ポリ乳酸が包接されることを見出すとともに、ラセン構造を記憶したst-PMMAがキラルなフラーレンやポリ乳酸のキラリティを識別できることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載の研究計画のほとんどの実験を遂行し、その多くは未発表(論文投稿中あるいは投稿準備中)ながら、目的の多くを達成することができたことから、研究はおおむね順調に進行していると判断した。当初計画にのっとり、様々の置換基を有する10種類以上のポリ(ビフェニルイルアセチレン)誘導体(poly-1)を合成し、そのラセン構造と持続長をX線構造解析等で決定するとともに、poly-1へのラセン構造の誘起と記憶に及ぼす置換基効果や溶媒効果等を詳細に調べ、その相関関係を明らかにした。これを踏まえ、側鎖にエステル基を有するキラル及びアキラルモノマーからなる共重合体が、類似のラセン高分子としては前例のないほど高い不斉増幅能と更なるラセン構造の記憶が可能であることを明確に示すことにも成功した。極微量のアミノ酸のキラリティを高感度に検出可能なシステムの構築と合わせ、本研究成果は、目標とする究極のキラリティ検出に繋がる重要な成果と言える。 蛍光性のポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体(poly-2)にも、ラセン構造の誘起と記憶が可能であることを実証し、poly-2がほぼ完璧な不斉吸着能とキラリティに応答した明確な色変化を示したことは、目的とする「究極のキラル分離剤」や「キラルリトマス紙」の開発に繋がる特筆すべき成果の一つと言える。これら以外にも、溶出順序可変の実用的なキラルカラムの開発に繋がる、微量の光学活性体存在下、高速でラセン誘起と記憶が可能な系の構築にも成功するとともに、特異なラセン空孔を有するヘリケートのデラセミ化反応の発見やシンジオタクチックポリメタクリル酸メチル(st-PMMA)のラセン空孔への包接現象を利用したユニークな光学分割材料の開発も含め、ラセン空孔を不斉場に用いたキラル分離や不斉反応の開拓に結びつく、多くの新たな知見も多数得られた。
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今後の研究の推進方策 |
1. 1年弱の研究期間で、本研究の鍵となる記憶力を有するポリ(ビフェニルイルアセチレン)誘導体(poly-1)の構造解析、基本となる物性の評価、記憶力に及ぼす側鎖の置換基や溶媒効果の検討もほぼ終了したのを受け、ラセン誘起と記憶の機構の全貌解明に取り組む。そのために、高速原子間力顕微鏡(AFM)を新たに導入し、ラセン構造誘起の直接観察に挑むとともに、全原子分子動力学シミュレーションによるラセンと側鎖キラリティの相関関係を明らかにする。不斉増幅能が高く、より効率的かつ高速でラセン構造を誘起・記憶可能なラセン高分子の合成も行い、より実用的な溶出順序可変キラルカラムの開発を目指す。 2. 極微量のアミノ酸のキラリティを高感度に検出可能なシステム開発の成功を受け、1で合成した不斉増幅能の高いポリマーのキラル会合体形成を活用した更なる不斉増幅も行い、目標とする0.001% ee以下のアミノ酸のキラリティ検出に取り組む。円偏光 (CPL) や一方向の撹拌・回転といった物理的なキラリティの検出も実施する。 3. 記憶力を有する蛍光性ポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体(poly-2)の開発と完璧な不斉選択吸着の成功を受け、これをキラルカラムに用いた光学分割と超効率的かつ省エネルギーで動作する光学分割システム(キラルベルト)の開発を開始する。蛍光性のpoly-2の特長を活用し、キラリティや光学純度に高感度に応答し、色と蛍光の変化を示す実用的な高分子フィルム (キラルリトマス紙) の開発にも挑む。 4. 特異なラセン空孔を有する二重ラセンヘリケートからなる超分子ポリマ-の合成やその触媒的デラセミ化、記憶力を有するst-PMMAのラセン空孔を利用した様々のフラーレン含有キラル分子やラセン高分子の簡便な光学分割が可能な材料の開発にも取り組む。 前年度に得た研究成果に更に磨きをかけ、より重厚な論文として国際誌に投稿する。
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