研究課題/領域番号 |
18H05211
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
藤巻 朗 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (20183931)
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研究分担者 |
高木 直史 京都大学, 情報学研究科, 教授 (10171422)
牧瀬 圭正 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 特定フェロー (60363321)
山下 太郎 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (60567254)
吉川 信行 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 教授 (70202398)
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研究期間 (年度) |
2018-04-23 – 2023-03-31
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キーワード | 単一磁束量子 / 半磁束量子 / パルス論理 / π接合 / 磁性ジョセフソン接合 |
研究実績の概要 |
2022年度は、当初計画に沿って、大きく3つの課題について研究を進めてきた。1つはパルス駆動の高速マイクロプロセッサの開発である。具体的には、単一磁束量子回路を用いて、8ビット並列のマイクロプロセッサの実証を進めた。世界で本研究グループのみが、ビット並列で50GHz以上の動作速度での大規模集積回路の実績を持つが、マイクロプロセッサは各機能ブロック間で処理速度が異なり、各ブロック間のデータのやりとりが極めて複雑になる。加えて、データパスは50GHz以上で動かす必要があることから、設計において最も難易度が高い。精緻な信号伝搬の遅延時間の制御法を確立ことで、64GHzまでの命令実行を確認した。なお、設計技術に関しては、各論理ゲートに到来する信号のタイミングのよりいっそうの厳密制御をサポートするため、様々な論理ゲートを含む回路を対象とする静的タイミング解析ツールを開発するとともに、レイアウトエディタによる配線環境の整備を行った。 2つ目の課題は、磁性接合によるパルス駆動のマトリクスメモリを中心とする半磁束量子回路の実証に関するものである。磁性接合を世界で唯一安定に形成する技術を有しており、この技術をベースにパルス駆動マトリクスメモリの解析や開発を進めた。論理値0と1の状態間に存在するエネルギー障壁をパルスの持つエネルギー10zJオーダーで制御することに成功し、ワード線とビット線で選ばれたところの記憶セルの書込みや読出しに成功している。なお、このメモリとマイクロプロセッサを将来は3次元実装する必要がある。これまで、マルチチップ構造においてパルスのチップ間伝送特性を測定し、120GHzでの伝送を確認している。 3つ目の課題は、量子限界に近い環境での半磁束量子回路の動作の実証である。この目的のために、独自の半磁束量子回路用プロセスを開発し、トグルフリップフロップの動作を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前述のように、3つの課題について、おおむね順調に研究は推移した。8ビットマイクロプロセッサの50GHzを超える実証は、超伝導デジタル回路の研究の集大成ともいえる成果であり、今後はこの処理速度に合うシステムの検討の段階に入っていくものと考える。また、この過程で開発された設計法あるいはCAD技術は、極めて信頼性が高く、世界的な標準となる可能性を秘めている。 システムにおいて、もう一つの重要な要素がメモリの階層構造である。本研究で研究開発を進めるパルス駆動型のメモリは、他の技術では実現し得ない高速マトリクスメモリを構築し得る。これは、メモリの内部状態の変更をインパルスで行うことができるようにした結果であり、すべてのマトリクスメモリにおいて高速化の障害となっていた記憶セル選択のためのワード線やビット線における充放電現象を回避している。現時点での試算では、少なくとも10GHzを超える周波数で信号の入力、読出しが可能となっている。今後はマイクロプロセッサと同じ周波数で動くレジスタファイル、さらなる大容量が必要な主記憶との整合性の検討が求められる。 2021年度下期以降ついては、試作を担う産総研でのクリーンルーム改修が行われ、実証実験が困難となっている。これに対応するため、名古屋大学内だけで独自に半磁束量子回路や単一磁束量子回路の小規模回路を形成するプロセスを立ち上げた。この技術により、極低温での回路の検証も進められている。 このほか、半磁束量子回路の基本デバイスである0-π SQUIDが、高い比透磁率材として振る舞うことを見出した。2021年度は、この実験もスタートしている。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は研究期間の最終年度とあっており、当初計画通り、これまで開発して来た全ての技術の集結を図る。具体的な開発項目としては、開発して来たマイクロプロセッサとパルス駆動メモリの3次元実装による評価となる。この評価を通して、数十GHzを超えるパルス駆動回路の設計法、回路構成法、広帯域マルチチップモジュールの課題の抽出ならびにその解決/回避方法の確立を目指す。 上記の目標の障害となっているのが、パルス駆動マトリクスメモリの大規模化である。現在は課題解決の方法を数値計算等の解析で進めており、産総研のクリーンルームの改修が終了し次第、実際の試作に取り組む。 本研究では、半磁束量子回路の20mK程度の極低温での動作検証も行うこととしている。この温度では、熱的な揺らぎを抑制することができ、信号となるパルスのエネルギー・時間半値幅の積がプランク定数の10倍程度に設定することも可能である。すなわち、古典的な演算回路が量子限界に近い領域でどのような振る舞いをするのかを、実際の回路で調べることが可能となる。幸い2021年度に確立した名古屋大学での作成プロセスを用いることで、この研究を実施することが可能である。この研究を通して、古典計算の熱力学的限界、量子力学的限界での振る舞いを明らかとする。 上記に加え、0-π SQUIDは物理的にも工学的にも興味深い振る舞いをすることが期待される。まずは系統的な調査により、透磁率増大効果などの性質を明らかにする。
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