研究課題
マウスを用いて、「脳海馬の記憶エングラム細胞とノンエングラム細胞のそれぞれを同定しつつ、神経細胞の活動を自由行動下で測定できる新規技術」を確立した。この技術を用いて、学習時・想起時、さらには睡眠中の神経活動をカルシウム動態を指標として計測し、記憶エングラムとなる細胞特有の神経活動パターンを抽出した。得られた大規模な活動データを数理解析し、同期活動したエングラム細胞の集団(セルアンサンブル)を同定した。一つの記憶エングラムは、時間的には少しずつ離れて活動した数多くのセルアンサンブルの集合体であることを見いだした。また、学習時に活動した数多くのサブアンサンブルのうち、引き続く睡眠時に再活動したものが、その記憶の想起時にも優先的に活動することを見いだした。これらの結果は、睡眠中のエングラムサブアンサンブルの再活動が記憶の固定化などの重要な機能を担っていることを強く示唆している。さらに、マウスが複数の情報間の関係を推論する報酬学習課題を開発した。推論が睡眠中に行われているか否かを検討中である。MiLSS/U-FEISを用いて脳活動を計測中に、特定の数個のセルアセンブリ活動を検出し、直ちにトリガー信号を出すクローズドループ光操作系を開発した。大脳皮質の神経回路を単純化したモデルを用いて、自発発火に含まれるセルアセンブリを自動的に学習・検出できることを人工データで検証した。また井ノ口グループが測定した海馬CA3の活動データの数学的手法による解析を開始した。またCA3によるエピソードの時系列学習に関して、最新の実験結果に基づき新しいモデルを提案した。積極的な脳アイドリングである瞑想の動物モデルを確立するため、自由行動下のマウスで呼吸を安定してモニターできる装置を開発した。精神疾患のモデルマウスでは総じて呼吸の異常がみられた。
2: おおむね順調に進展している
1.アイドリング中の脳内活動:マウスを用い学習時やその後のニューロン活動を超小型内視顕微鏡を用いカルシウム動態を指標として計測した。記憶エングラムとなる細胞が形成するセルアセンブリ活動の推移を数理解析により調べた。学習時に形成された数多くのサブアセンブリは睡眠時にも再活動(リプレイ)していた。リプレイしたセルアセンブリが、その後の記憶想起時に優先的に活動することを見いだし、リプレイが記憶の固定化に重要であることを強く示唆した。また、学習課題を与える前にプレプレイ活動を示したセルアセンブリが優先的に学習後のリプレイや想起時に現れたことから、プレプレイセルアセンブリが記憶エングラムに優先的に取り込まれることが明らかになった。さらに、マウスが複数の情報間の関係を推論する報酬学習課題を開発した。推論が睡眠中に行われているか否かを検討中である。2.技術開発MiLSS/U-FEISを用いて脳活動を計測中に、特定の数個のセルアセンブリ活動を検出し、直ちにトリガー信号を出すクローズドループ光操作系を開発した。3.数理モデル:セルアセンブリの検出が可能なのは、記録した細胞集団がセルアセンブリに参加するニューロンを一定数以上(30~40程度)含む場合であることがわかった。この条件はカルシウム蛍光法であれば十分達成可能である。CA3の神経回路は、従来考えられているアトラクター記憶とは様相を異にする活動パターンを示すことがわかってきた。またモデルはアトラクター間の時間的な相関の長さが、複数の抑制メカニズムでかなり広範囲に調節される可能性を示唆した。4.瞑想モデル:自由行動下のマウスで呼吸を安定してモニターできる装置を開発し、呼吸の特性を計測した。精神疾患のモデルマウスでは総じて呼吸の異常がみられた。さらに呼吸の速度情報をフィードバックするシステムを開発し、呼吸速度を変更させる訓練を試みている。
アイドリング中の脳神経活動が行っている機能を明らかにするために、それに適したマウスの学習課題の開発をさらに進める。特にアイドリング中に行っていると思われる脳機能として、「選択的固定化」、「選択的忘却」、「推論」、「情報の統合」、「意思決定」、「共通性抽出」などを取り上げ、それぞれの脳機能を独自に判定できる学習課題の開発を進める。確立できた個々の学習課題を用いて、アイドリング脳がそれぞれの機能を果たしているか否かを検討する。さらに、超小型内視顕微鏡を用いカルシウム動態を指標として、上記課題を遂行前後のアイドリング中の脳神経活動を計測し数理解析を行う。また、セルアセンブリのアイドリング中プレプレイ活動を指標として、記憶エングラムの生成原理を探る。MiLSS/U-FEISを用いて脳活動を計測中に、特定の数十個程度のセルアセンブリ活動を検出できる系を開発し、実用に供することができるように技術開発を進める。CA3の記録データの解析をさらに進め、モデルの予言との整合性を検証する。また同時に発火率ニューロンを用いる現在の回路モデルをスパイクニューロンのモデルに拡張する。またセル・アセンブリ検出に用いた大脳皮質回路モデルを、領野間の情報連絡を記述できるような階層的計算モデルに拡張する。昨年度までに開発したマウスの呼吸速度情報をフィードバックさせるシステムを用いて野生型マウスの呼吸の操作を試み、呼吸の速度を調節させるパラダイムを開発する。平行して、各種環境による呼吸速度の変化の検討や、各種の疾患モデルマウスの呼吸特性についても検討を行う。
すべて 2019 2018 その他
すべて 雑誌論文 (24件) (うち査読あり 17件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (39件) (うち国際学会 21件、 招待講演 6件) 備考 (1件)
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