研究課題/領域番号 |
18H05213
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
井ノ口 馨 富山大学, 学術研究部医学系, 教授 (20318827)
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研究分担者 |
深井 朋樹 沖縄科学技術大学院大学, 神経情報・脳計算ユニット, 教授 (40218871)
高雄 啓三 富山大学, 学術研究部医学系, 教授 (80420397)
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研究期間 (年度) |
2018-04-23 – 2023-03-31
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キーワード | 神経科学 / アイドリング脳 / 記憶エングラム / 睡眠 / リプレイ / 潜在意識 |
研究実績の概要 |
1.アイドリング中の脳内活動: アイドリング脳の機能解析に適した複数の学習課題の開発を進め、推論、共通性抽出、論理的意思決定などのマウス学習課題を開発した。推論課題についてアイドリング脳の関与を詳しく解析した。学習直後の睡眠時に大脳皮質の一領域の神経細胞の活動を特異的に抑制すると、正答率がチャンスレベルに低下したことから、推論には学習直後の睡眠時の特定の大脳皮質の神経細胞活動が必要であることが分かった。また、アイドリング中に記憶エングラムの活動により、記憶同士の相互作用が起こることを見いだした。すなわち、潜在意識下で記憶エングラムが重要な機能を果たしていることが明らかになった。記憶エングラムの生成原理については、プレプレイ活動を示したセルアセンブリが記憶エングラムに優先的に取り込まれることを明らかにした。 2.技術開発: U-FEIS/MiLSSを用いたクローズドループ光操作系を改良し、設定可能なROIの数を最大100個まで増加させ、さらにFPGA画像処理ボードなどの追加により、MiLSSを介し、各カテゴリーに対応した10種の異なるパターンで光照射することが可能となり、実用性が増した。 3.数理モデル: 長周期構造をもつ新しいアイドリング状態が存在することを、神経回路の平均場理論を用いて示した。連想記憶モデルを拡張し、事象の順序情報の記憶を大幅に強化することに成功した。アイドリング状態に於いて樹状突起計算が果たす役割の解明に向け、新しい学習理論を構築した。 4.瞑想モデル: 積極的な脳アイドリングである瞑想の動物モデルを確立するためオペラント学習によりマウスに呼吸の速度を調節させるシステムを開発した。呼吸は密閉型チャンバーにより計測し、フィードバック刺激を用いる訓練を実施したところマウスの呼吸の速度の低下が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アイドリング脳活動に関して、推論をはじめ高次脳機能を評価する多くの学習課題を開発した。さらに、アイドリング中にこれらの情報が処理されて高次脳機能を担っていることを明らかにするなど、研究は順調に進捗している。さらに、潜在意識下の記憶エングラムの働きを発見し、潜在意識下の脳活動が果たす役割を解析する道を拓いたことは想定以上の成果であった。さらに、アイドリング中にプレプレイ活動を示したセルアセンブリが優先的にその後の学習の記憶エングラムに取り込まれることを明らかにし、記憶エングラムの構築原理の一端を明らかにするなど順調に研究が進捗している。 数理モデルについては、提案した樹状突起の学習規則は、単一ニューロンの高い時系列学習能力を示唆しており、神経回路のアイドリング状態が、経験依存に時系列情報を貯蔵している可能性を明らかにした。相関アトラクター連想記憶モデルにより、事象間の順序情報をセルアセンブリが柔軟に表現する仕組みと、抑制性神経回路が果たす役割が明らかになった。このように研究は順調に進んでいる。 瞑想モデルに関しては、これまでに密閉式チャンバーにより自由行動下のマウスで呼吸を安定してモニターできる装置を開発し、得られたデータを環境フォードバックして訓練することで野生型マウスを用いて呼吸の速度変化を誘発させることを試みた。環境条件として明るさをフィードバック刺激として用いて変化させることでマウスの呼吸を遅くすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
1.アイドリング脳の活動と機能: 昨年度までに確立した行動課題である「推論」、「情報の相互作用」、「論理的意思決定」、「共通性抽出」、「スキーマ」について、それらの高次脳機能をアイドリング脳が担う神経回路メカニズムを明らかにすることを目指して、概ね次の流れで解析を進めていく。1)それらの課題の達成に関与する脳領域を同定する。特に、大脳皮質の様々な領域に注目して解析を進める。2)それらの課題の達成にアイドリング脳活動がどのように関与しているのかを解析するために、「睡眠剥奪」や「光操作系や化学遺伝学による神経活動の阻害・活性化」が行動に与える影響を評価する。3)各課題の遂行に対するアイドリング脳の各フェーズ(ノンレム睡眠、レム睡眠、休息時など)の役割を解析する。4)超小型内視蛍光顕微鏡nVistaやU-FEISを用いたin vivoカルシウムイメージング法で、課題遂行中やアイドリング時の神経細胞集団の活動を測定する。5)得られる大規模データを数理解析を行い、セルアセンブリ活動などの特徴を抽出する。 2.数理モデル: 樹状突起の学習規則をリカレント神経回路に拡張し、アイドリング状態の生成機構と計算論的役割を探る。空間学習から得られた学習規則を用い、海馬プレプレイのモデルを構築する。これらの結果を井ノ口Gの実験データを解析して検証する。 3.瞑想モデル: これまで開発した密閉型チャンバーによる呼吸計測では脳波などの同時計測が難しかった。今後は熱電対を鼻腔内に留置し気流により呼吸を計測する。これにより様々な生理指標が同時に計測可能となる。並行して、各種環境による呼吸変化や、各種疾患モデルマウスの呼吸特性の検討も行う。
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