研究課題/領域番号 |
18H05217
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
渡辺 努 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 教授 (90313444)
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研究分担者 |
青木 浩介 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 教授 (30263362)
梶井 厚志 関西学院大学, 経済学部, 教授 (80282325)
宇井 貴志 一橋大学, 大学院経済学研究科, 教授 (60312815)
上田 晃三 早稲田大学, 政治経済学術院, 教授 (30708558)
水野 貴之 国立情報学研究所, 情報社会相関研究系, 准教授 (50467057)
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研究期間 (年度) |
2018-06-11 – 2023-03-31
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キーワード | マクロ経済学 / ゲーム理論 / 中央銀行 / 金融政策 / 透明性 / 信認 / 関心 |
研究実績の概要 |
本研究では、2018年度のプロジェクト開始から現在までの期間で、合計54本の論文・著書を作成してきた。現在は査読雑誌に投稿中あるいは投稿後の改訂中のステータスにある論文が多いが、プロジェクトの残りの期間で学術雑誌への掲載が見込まれている。また、本研究のメンバーは、これらの研究成果を内外のコンファランス等で報告し、情報発信を行っており、2018年度から現在までの報告総数は62件である。なお、新型コロナウイルス感染の影響で報告機会が減少したが、今後は内外の研究会で積極的に発信を行う計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の成果は既に内外で高い評価を得ている。特に日本のインフレ期待の形成に関する研究成果は、物価停滞の経済においてインフレ期待がどのように形成されるかを世界で初めて明らかにした論文として、内外の注目を集めた。本研究で生まれた2つの論文は2019年秋に開催された日本銀行の研究会で報告され、日本経済の現状を説明する仮説として多くの参加者から支持を得た。その後、黒田日銀総裁を始めとする日銀幹部の講演等でも頻繁に引用され、主要な海外メディアでも数多く紹介された。「物価の動きの鈍さ」という日本の物価問題を理解する際の、不可欠な基礎概念として浸透している。また、本研究では、価格をはじめとする経済変数について人々が予想する際に、使用できる情報が限定されているという、現実的な設定の下で、均衡がどのような性質をもつかについて理論的な分析を行い、研究成果をあげてきた。プロジェクトの残りの期間で、中央銀行コミュニケーションの解明、特に中央銀行への「関心」と「信認」の解明に向けた分析作業をさらに加速させる計画である。
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今後の研究の推進方策 |
「理論モデル」班は、中央銀行と民間部門の情報伝達に関する研究を継続する。具体的には、①情報伝達の双方向性を考慮した分析と、②情報開示に関する経済厚生分析を行う。特に、①については、中央銀行は民間に情報発信すると同時に、資産価格等の経済変数を分析して経済の現状を把握しており、双方向性がある。この点を踏まえて、中央銀行から民間への情報発信の度合いが中央銀行の民間からの受信にどのような影響を及ぼすか等を分析する。 「実証・サーベイ」班は、企業の価格転嫁率の低下に関する分析を継続する。企業を対象としたアンケート調査の結果と財務・販売価格データを組み合わせることにより、価格転嫁率の低下がなぜ生じているのか、中央銀行の発信は価格転嫁率にどのような影響を及ぼすかを分析する。また、企業の価格転嫁率が低い状況では、限界費用の増加に対して商品の価格ではなく、商品の品質で調整するということが行われる。これはNon-price adjustmentとよばれている。日本で起きている商品の小型化はその一種とみることができる。商品の品質について消費者の認知能力に限界があるという設定の下でモデルを構築し、どのような条件下で商品の小型化戦略が均衡における現象として現れるかを調べる。またその条件が実際に満たされているかを実証的に検証する。 「非構造化データ」班は、これまでに開発した分析手法と構築した経済文書のデータベースを用いて、日銀の発信する情報に対する「関心」と「信認」の有無に関する分析を継続する。その際、経済現象の因果に関する認識が中央銀行と民間で異なることが原因となって、中央銀行の情報発信に対する「関心」と「信認」が損なわれる可能性について分析を行う。 「事例研究」班は、日銀の行った非伝統的金融緩和政策を題材に、同政策の形成過程とそこにおける中銀と市場との対話について分析を継続する。
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