研究課題/領域番号 |
18H05222
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山本 智 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (80182624)
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研究分担者 |
大屋 瑶子 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (00813908)
坂井 南美 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 主任研究員 (70533553)
相川 祐理 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (40324909)
花輪 知幸 千葉大学, 先進科学センター, 教授 (50172953)
廣田 朋也 国立天文台, 水沢VLBI観測所, 助教 (10325764)
酒井 剛 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (20469604)
渡邉 祥正 芝浦工業大学, 工学部, 准教授 (20586929)
前澤 裕之 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (00377780)
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研究期間 (年度) |
2018-06-11 – 2023-03-31
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キーワード | 星形成 / 惑星系形成 / 星間物質 / 電波天文学 / 星間化学 |
研究実績の概要 |
国際共同大型ミリ波サブミリ波干渉計ALMAを用いた観測を中心に研究を進めた。 原始星天体の化学的多様性の全貌と原始惑星系円盤への進化の探求としては、CB68, IRAS 15398-3359, Elias 29, L483, B335, VLA1623Aの解析を進めた。このうち、CB68について、1000天文単位スケールでは不飽和有機分子が豊富で、10 au スケールで飽和有機分子が豊富なハイブリッド型の化学構造を持つ天体であることを示すとともに、回転落下円盤構造を解析して原始星質量の範囲を求めた。さらに、IRAS15398-3359についても、同様なハイブリッド型の化学構造が発見された。この天体については、これまで不飽和有機分子が豊富な天体として知られてきたが、高感度観測によって飽和有機分子の多数の輝線が検出された。これら結果は、ハイブリッド型の化学構造が「標準型」である可能性を強めており、化学的多様性の理解を大きく進めつつある。 原始惑星系円盤形成とそこでの物理・化学過程の解明については、IRAS16293-2422 Source A、B335について10天文単位スケールでの観測を進めた。IRAS16293-2422 Source Aでは回転するアウトフロー構造を捉え、円盤形成における角運動量分配を定量的に検証した。B335では3天文単位程度の解像度で原始星近傍の化学組成分布を捉え、主成分分析を活用して、10天文単位スケールでの分子分布の特徴を明らかにした。 ALMAによる観測と併行して、分子スペクトル線の静止周波数の精密測定を進めた。理化学研究所に設置した放射型ミリ波・サブミリ波分光計(SUMIRE)を用いて、星・惑星系形成領域の観測で重要な有機分子の測定を進めた。CH2DOHや13CH2DOHの測定を進め、その解析が進行中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の1つの柱は、ALMAの大型プロジェクトFAUSTで取得したデータの解析である。当初、ALMAが提供するキャリブレーション・パイプラインに問題があり、条件によっては強度が10%以上異なる可能性が判明していたが、この問題は米国の共同研究者が独自のスクリプトを作成して解決した。その結果、観測データの解析が大きく進展しつつある。FAUSTは北米、欧州の研究者を含む70名からなる国際プロジェクトであり、山本が代表者である。COVID19の国際的蔓延に伴い、対面での全体会合が開催できない状況が続いているが、2020年10月-12月、2021年5月―7月、および2022年2月―3月に総計14回の オンラインでの会合を行い、観測結果の吟味と議論を行った。 一方、惑星系形成領域の物理・化学構造を10天文単位スケールで明らかにする高分解能観測が進展した。低質量原始星IRAS16293-2422 Source Aにおける回転するアウトフローの検出、孤立した低質量原始星B335における3天文単位の解像どによる原始星近傍の化学組成の解明が主な成果である。後者においては、速度情報も含む3次元の主成分分析を適用し、無バイアスに分子種ごとの分布の特徴を明らかにしたことも特筆される。このような3次元の主成分分析はL483のデータにも適用し有効性を確認した。その結果、窒素を含む有機分子が酸素を含む有機分子よりも原始星近傍によりコンパクトに分布していることがわかった。 理化学研究所に設置した放射型ミリ波サブミリ波分光計(SUMIRE)は本格的に稼働を開始し、ALMAによって観測される重要な有機分子であるメタノールとその重水素同位体種のスペクトル線の網羅的な測定を行った。この分光計は絶対強度が測定できる特徴をもつので、それを利用した研究を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究ではALMAの大型プロジェクトFAUSTで得られる観測成果を最大限活用すべく、そのデータ解析に取り組む。FAUSTは北米、欧州の研究者を含む70名からなる国際観測プロジェクトであり、COVID19の国際的蔓延状況にあって対面での議論が長くできなかったが、本研究のとりまとめにあたり、2022年9月にフランスのグルノーブルで対面会議を行う予定で準備している。また、それと併行して、オンラインによる議論も継続して行う計画である。オンラインでは時差の関係で毎回1時間―2時間程度の会議しかできないが、活発な議論がなされ大変有効なので、今後も活用していく。 惑星系形成領域の物理・化学構造の詳細を高解像度観測で解明する研究については、すでにALMAデータを取得しているIRAS16293-2422, B335などについて取り組む。すでに始めている主成分分析による解析だけでなく、より進んだ機械学習を積極的に導入して、先入観なく物理構造や化学組成分布を抽出していく。すでに、教師あり機械学習としてSupport Vector Machine を用いた研究を進めており、成果も得られている。今後はこれらをFAUSTデータに適用するとともに、深層学習の手法の導入にも積極的に取り組む。ALMA時代になって、一つの天体で多数の分子スペクトル線が観測されるようになっている。それらを余すところなく活用することにより、本研究の目的である惑星系形成の物理・化学構造の解明を加速させる。 分子スペクトル線の周波数測定については、理研に設置したSUMIREを用いて基本的有機分子であるCH3OHの希少同位体種のスペクトル測定を進め、データベースとして整備するとともに、観測データの解析に役立てる。また、SUMIREの測定可能周波数範囲の拡大にも取り組む。
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