研究課題/領域番号 |
18H05223
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
土居 守 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (00242090)
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研究分担者 |
前田 啓一 京都大学, 理学研究科, 准教授 (00503880)
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研究期間 (年度) |
2018-06-11 – 2023-03-31
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キーワード | Ia型超新星 / 親星 / 爆発メカニズム / 標準光源 / 宇宙膨張 |
研究実績の概要 |
トモエゴゼンカメラは2019年9月に完成、定常観測を開始、2000平方度以上を30分おきに観測するモードを導入、超新星の初期からの観測に成功した。せいめい望遠鏡用の3バンド同時撮像カメラTriCCSは、筐体および光学系が2019度末に完成した。CMOSセンサーは2台目を購入、ダイクロイックミラーの製作も行った。TAO望遠鏡にむけて改修を行っている近赤外線分光器NICEは、高地対応のための計算機交換を完了、また老朽化した冷凍機とフィルターも交換した。また望遠鏡のインターフェースの設計を進めた。 観測研究においては、Ia型超新星について、初期増光を、データアーカイブを用いてまとめた研究論文を1編、すばる望遠鏡HSCによる観測によって調べた論文を1編発表した。明るめと暗めのIa型超新星では高い頻度で初期増光が観測される一方で、普通の明るさのIa型超新星では初期の増光がほとんどみられないという大変興味深い結果を得ている。また近傍のIa型超新星の色と明るさのばらつきを調べ、Broad Lineを示す超新星には一部赤く暗いものが存在し、それらを除くと色のばらつきの大部分は星間塵の減光で説明できることを発見、論文投稿中である。Broad Line超新星一例については、せいめい望遠鏡面分光装置を用い、このタイプの超新星で最も初期の分光データの取得に成功した。 理論研究おいては、初期増光の輻射シミュレーションコードの改良および初期光度曲線観測データとの比較、Ia型超新星の種々のモデルに基づく恒星進化・流体・爆発シミュレーションなどを行った。特に放射理論モデルを通した解析により、Broad Lineを示すIa型超新星においては、爆発における元素合成が最外層まで広がっていることを発見した。また、超高輝度超新星の一部はIa型超新星であることを光度曲線・スペクトル理論解析によって示し発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
トモエゴゼンカメラの超新星観測は順調に開始しており、初期のIa型超新星の観測に成功している(論文準備中)。せいめい望遠鏡のCMOSカメラTriCCSは、当初3バンド同時撮像が可能な計画であったが、他の科研費の装置と組み合わせることにより5バンド(本計画では可視3バンド部分を製作)に拡張して製作中である。当初より数か月遅れているが本計画担当部分は2020年6月に試験観測を実施予定である(当報告書作成段階で実施済であり、順調にシャープな画像の取得に成功した)。近赤外線分光器NICEの改修はほぼ完了しつつある。全体としてハードウエアの整備はほぼ当初の計画通り進んでいると言える。ただし、新型コロナウイルスのため、TAO望遠鏡の稼働が遅れる可能性があるが、他の望遠鏡による観測である程度補えると考えている。 Ia型超新星の可視光での色と明るさのばらつきについては、サンプル数は少ないものの、色が赤い一群(Broad Lineを示す)があることを発見、それ以外は標準的な塵の減光で説明できることを示せた。Broad Lineを示すIa型超新星はせいめい望遠鏡の観測や理論モデルでの研究も進んだ。また、初期増光を示すIa型超新星の観測的研究も進め、絶対光度によって初期の増光の有無があることも示せた。これらによって、Ia型超新星をより高度な標準光源とするためのばらつきの理解が進みつつある。 当初よりも進んだところも、少し遅れているところもあり、全体としては、おおむね順調に進展していると自己診断する。
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今後の研究の推進方策 |
トモエゴゼンカメラについては、爆発直後からの観測を目指し、引き続き観測を実施する。特に、迅速な追加観測が可能となるように、解析パイプラインの高速化のために研究員を雇用する予定である。また、結果を迅速に共同研究者へと配信できるようにデータサーバーの整備を行う。 TriCCSについては、光学系と筐体の性能評価も兼ねた試験観測を2020年6月から行う予定である。また高感度のCMOSカメラを2020年度9月に導入予定である。NICEは改修を終えて、TAO望遠鏡の完成を待つ。新型コロナウイルスのため、TAO望遠鏡の建設は遅れているが、近赤外線観測は国際共同研究を含めてカバーしていく。 全体として、観測研究においては、Ia型超新星をより高精度の標準光源とできるように、観測データを蓄積していく。 理論研究においては、引き続きIa型超新星の種々のモデルに基づく恒星進化・流体・爆発シミュレーションを進め、新しい観測データを解釈しながら、親星の起源と爆発メカニズムの解明をめざす。
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