研究課題/領域番号 |
18H05225
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鹿野田 一司 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (20194946)
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研究分担者 |
賀川 史敬 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (30598983)
森 初果 東京大学, 物性研究所, 教授 (00334342)
伊藤 哲明 東京理科大学, 理学部第一部応用物理学科, 教授 (50402748)
池田 昌司 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (00731556)
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研究期間 (年度) |
2018-06-11 – 2023-03-31
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キーワード | 電子ガラス / 分子性固体 / 強相関電子系 / ソフトマター |
研究実績の概要 |
○量子性ガラスの探索と電子レオロジーの確立(鹿野田、伊藤):i) 前年度見出した電子ガラスの量子融解による異常金属相が、一軸歪によるフラストレーションの低減により電子ガラス/結晶に帰ること、ii) 電子ガラスが2次元伝導層に強く閉じ込められた電子流体であること、iii) 電子ガラスが強電場下で特異な振動現象を示すこと、及びiv) 電子ガラスと過冷却液体の結晶化過程に質的な違いがあることを見出した。v) 乱れが導入されたモット転移系に発現する電子グリフィス相の圧力-温度-乱れの3元相図の全容解明に成功し、さらに、この電子グリフィス相における電子のダイナミクスが巨大パルス電流に対し非線形に応答する兆候を見出した。 ○電子系ガラスの相制御と物質制御(賀川、森):i) 巨大磁気抵抗系Nd0.5Sr0.5MnO3の電流パルスによる高速冷却により、反強磁性絶縁相(熱力学安定相)と強磁性金属相(準定常非平衡状態)との間で可逆かつ不揮発な相制御を達成し、ガラス的特徴を活用した新奇相制御法を実証した。ii) 前年度開発した水素―電子結合系κ-X3(Cat-EDT-TTF)2(X = H、D)が、加圧により水素局所移動に伴う圧力誘起電荷秩序絶縁相になることが明らかとなり、ダイマーモット相と水素移動由来の電荷秩序相が競合、共存する電子ガラスの舞台の創出に成功した。 ○電子ガラスのモデル化(池田):i) 三角格子上のクーロン粒子系について、エネルギー地形の数値解析を行ったところ、温度低下とともに、系がより安定な固有構造(エネルギー地形の深い谷)にトラップされはじめ、それと同時に動力学が遅化する構造ガラスと共通する振る舞いを見出した。ii) 構造ガラスにおける低温での緩和挙動を数値的に検討した結果、極めて低エネルギーでの構造転移を発見し、普遍的な遅い緩和モードを特定することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
○量子性ガラスの探索:一軸歪による電子ガラスの制御とそれによる基底状態の変化を調べる実験では我々の仮説を強く支持する高い質の実験成果が得られた。さらに、ラマンイメージングを低温に拡張することで電子の結晶化機構の温度による違いを明らかにし、また、電子ガラスの特異な流体的特徴や強電流下での特異な振動現象を見出すなど、当初の計画以上の成果が得られた。電子グリフィス相については、圧力-温度-乱れ相図を構築し、この新奇相の全貌を明らかにすることができた。これは、本研究課題が着目している電子ガラス・電子ソフトマター現象の、多様性の開拓とその背景の微視的機構解明に成功したものであり、当初の予定を超えた成果と言える。 ○電子系ガラスの相制御と物質制御:Mn 酸化物という代表的な強相関電子系において、相の熱力学安定性ではなく、相転移の時間スケールに着目することで、強磁性金属状態と反強磁性絶縁体状態の可逆かつ不揮発な変換を電流パルス印加によって達成した。これは非平衡ダイナミクスに着目した新奇な相制御という概念が広い物質系に適用される普遍的な概念であることを強く示唆しており、期待以上の成果が得られた。また、強相関電子系のダイマーモット相および電荷秩序相は、一般に独立に存在するが、水素―電子結合系分子性導体を開発することにより、水素のダイナミクスと相関してこの2相が圧力印可で切り替わる際に、ミクロなスケールで両者がせめぎあう舞台を創出することができたのは大きな成果と言える。 ○電荷ガラスのモデル化:電荷ガラス模型と構造ガラス模型の研究を、エネルギー地形の解析という共通の基盤のもとで行ったことで、両者の普遍的な性質が明らかにできつつある。また並行して行ったガラス系の構造転移や緩和モードの研究で得た知見は、ガラス特有の遅い動力学の普遍的な理解を前進させるものである。これらは、当初の計画以上の成果といえる。
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今後の研究の推進方策 |
○量子性ガラスの探索:遍歴電子系で観測された動的不均一性の解明が量子性ガラスの理解の鍵となる。今後、加圧による量子性(遍歴性)の強弱と動的不均一性の消長との相関を広帯域周波数NMR分光で調べる。また、量子性ガラスの結晶化過程をメゾスコピックスケールで明らかにするために、電子ガラスと電子結晶の界面をラマン分光で調べる。電子グリフィス相に関しては、極低温でNMR緩和率測定を行い、電子の遅いダイナミクスと量子性との関連を明らかにする。また並行して、電流印加下NMR測定を圧力-温度-乱れのパラメータを制御しながら行い、電子グリフィス相の非平衡ダイナミクスの全体像を明らかにする。 ○電子系ガラスの相制御と物質制御:典型的な巨大磁気抵抗系であるNd0.5Sr0.5MnO3において見出された、反強磁性絶縁相(熱力学安定相)と強磁性金属相(準定常非平衡状態)の実空間観測相分離状態を磁気力顕微鏡(MFM)を用いて行う。また、MoTe2などの遷移金属ダイカルコゲナイドに対しても、相転移の遅いダイナミクスに着目した超伝導/非超伝導の不揮発相制御の達成、および走査型ラマン顕微鏡を用いたドメイン構造の解明を行う。水素―電子結合系κ-X3(Cat-EDT-TTF)2(X = H、D)については、元素置換による化学圧力と物理圧力を組み合わせて、ダイマーモット相と水素誘起電荷秩序相の境界領域のガラス的特性を調べる。 ○電荷ガラスのモデル化:特に電荷秩序の形成過程に注目して、電荷ガラスモデルの動力学の解析をさらに進める。実験的には、電荷秩序形成は液体の結晶化と同様の面を持つ一方、Avrami指数が小さいなど、特徴的なふるまいも見えている。そこで数値シミュレーションにより、電荷の秩序化の動力学を微視的な観点から解明する。さらにその知見を踏まえて、電子ガラスのガラス形成能の支配因子を明らかにする。
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