研究課題/領域番号 |
18H05226
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
飯嶋 徹 名古屋大学, 素粒子宇宙起源研究所, 教授 (80270396)
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研究分担者 |
早坂 圭司 新潟大学, 自然科学系, 教授 (40377966)
角野 秀一 東京都立大学, 理学研究科, 教授 (70376698)
三部 勉 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 教授 (80536938) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2018-06-11 – 2023-03-31
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キーワード | 素粒子実験 / レプトン / 加速器 / 粒子測定技術 |
研究実績の概要 |
SuperKEKB/Belle II実験においては、コロナ禍の影響を受けながらも、実験装置の運転とデータ収集を継続し、R2年度末までに約90fb-1、R2→R3年度の繰越分の研究完了までには約210fb-1のデータ蓄積を達成することができた。この間、加速器研究者と協力して加速器ルミノシティを高めるとともに、検出器バックグランドの低減化を図り、より高いルミノシティでのデータ取得達成を目指した。その一方で、本研究において検出器性能やデータ解析効率を極限まで高め、効率良いデータ収集と解析を以下のように進めた。 B崩壊研究においては、前年度に引き続き、B中間子タウオニック崩壊の解析プログラムの整備、シミュレーションによるバックグランドの評価、解析効率の評価、解析の最適化に関する研究を進めた。タウレプトンのデータ解析では、τ→lγ(l=e,μ)の解析を先行実験Belleのデータを使って進め、過去の結果よりも高い感度での探索が可能になることを明らかにした。TOPおよびARICHカウンターの運用を継続し、光検出器の調整と性能評価を行うとともに、将来的に向けた開発としてSiPMを使った光センサーの開発を進めた。コンピューティングにおいては、各サイトのダウンタイム等を自動的に検出し、それに対応したジョブ導入やにファイル転送の高度化を実現した。また各解析者の不具合を自動的に追跡し、より容易に問題点を探しあてるツールも開発した。 一方、J-PARC E34実験に関連する研究では、前年度に引き続いて、超低速ミューオン源の開発とミューオン線形加速器の開発を進めた。特に後者においては、初段RFQと2段目のIH加速器間でのビーム輸送経路のデザインと、ビームモニターとしての超高時間分解能低エネルギー荷電粒子測定器の性能改良を、目標性能を達成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Belle II実験の蓄積データ量(R2年度末までに約90fb-1、R2→R3年度の繰越分の研究完了までには約210fb-1)は、当初の目標値(R2年度末までに500fb-1)よりも低い値となったが、これはコロナ禍による影響や、加速器運転時間によるもので、本研究にとっては外的な要因である。その一方で、加速器の衝突性能は世界最高値を達成し、Belle II検出器のデータ収集効率を90%にまで改善することができ、今後、十分な運転時間が確保されれば、所定のB中間子崩壊とタウレプトン崩壊に関する物理成果を得ることが可能と考えている。一方、ミューオンg-2に寄与する量子補正効果の評価を与える電子-陽電子衝突団面積の測定については、これまでに蓄積したデータで十分な精度の結果が得られる見込みである。また、新しく導入した粒子識別装置(TOPおよびARICHカウンター)についても性能が検証され、物理解析においても効果が確認されたほか、将来的な導入を検討している新型光センサーの開発も進んでいる。 J-PARC E34実験に関連する研究では、前年度に引き続いて、超低速ミューオン源の開発とミューオン線形加速器の開発を進めた。特に後者においては、初段RFQと2段目のIH加速器間でのビーム輸送経路のデザインと、ビームモニターとしての超高時間分解能低エネルギー荷電粒子測定器の性能改良を、目標性能を達成した。
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今後の研究の推進方策 |
SuperKEKB/Belle II実験においては、R4年度までに、500 fb-1以上のデータ蓄積を達成し、物理成果の獲得を進める。加速器ルミノシティを高めるとともに、検出器バックグランドの低減化を図り、より高いルミノシティでのデータ取得達成を目指す。加速器運転時間の不足を補うべく、検出器性能やデータ解析効率を極限まで高め、効率良いデータ収集と解析を以下のように進める。 B中間子崩壊におけるレプトン普遍性の破れの研究においては、2021年夏までに蓄積されたデータを使って、B→D*τν事象の崩壊分岐比測定の最初の結果抽出を進め、引き続き2022年夏までに蓄積される予定の約500fb-1のデータ解析を進める。タウLFV探索において重要なレプトン識別の理解をさらに進め、統計誤差評価用のモジュール開発も並行して行っていく。 多彩なタウLFV探索を進めて行く。特にLτ-Lμモデルに感度のあるτ→lepton+a 探索に注力する。また従来高統計を求められたタウLFVモードに対して比較的低統計でも対応可能な探索の高感度化のスタディを推進する。電子-陽電子衝突断面積の精密測定については、e+e- -> pi+pi-pi0反応に関する結果獲得と論文発表を目指す。粒子識別装置については、寿命改良型光検出器の導入を進めるとともに、Belle II 実験の高度化において予想される高い放射線環境での動作に対応した研究開発を進める。 一方、J-PARCミューオンg-2/EDM実験の技術開発では、これまで準備を行ってきた室温シリカエアロゲルで生成した熱ミューオニウムのイオン化による超低速ミューオン源の実証、得られた超低速ミューオンの加速テストを行う。
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