研究課題/領域番号 |
18H05227
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松田 祐司 京都大学, 理学研究科, 教授 (50199816)
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研究分担者 |
芝内 孝禎 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (00251356)
笠原 成 京都大学, 理学研究科, 助教 (10425556)
笠原 裕一 京都大学, 理学研究科, 准教授 (10511941)
柳瀬 陽一 京都大学, 理学研究科, 教授 (70332575)
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研究期間 (年度) |
2018-06-11 – 2023-03-31
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キーワード | 高温超伝導 / 量子スピン液体 / ネマティック状態 |
研究実績の概要 |
(1) 鉄系高温超伝導体のネマティック揺らぎのもたらす異常電子状態 Fe(Se1-xSx)におけるネマティック量子臨界点(x ~ 0.16)において超伝導のギャップ構造が劇的に変わることを明らかにした[Y. Sato et al., PNAS (2018); T. Hanaguri et al., Sci, Adv. (2018)]。さらに強磁場中のノーマル状態の輸送現象が、ネマティック揺らぎにより非フェルミ流体的な振る舞いを示すことも明らかにした[S. Licciardello et al., Nature (2019)]。 (2) 量子スピン液体のエキゾチック準粒子 3次元パイロクロアPr2Zr2O7 では、100 mK 以下において熱伝導が異常に大きくなる現象が観測され、これがトポロジカル励起であるフォトン励起である可能性を示した。また1-2K では量子モノポール励起も観測されることも示した[Y. Tokiwa et al., J. Phys. Soc. Jpn. (2018)]。さらにキタエフ・スピン液体候補物質であるα-RuCl3 に対し熱ホール効果の測定を行い、有限の熱ホール効果が観測されるだけでなく[Y. Kasahara et al., Phys. Rev. Lett. (2018)]、熱ホール効果が半整数値に量子化されることを発見した[Y. Kasahara et al., Nature (2018)]。これはマヨラナ粒子と非可換エニオンの存在を直接示すものであり、分数量子ホール効果における電荷の分数化と同様にスピンの分数化の証拠を与える。 (3) 絶縁体における量子振動の観測 近藤絶縁体YbB12 において量子振動測定を行ない、その結果、磁化だけでなく電気抵抗にも量子振動が現れることを発見した[Z. Xiang et al., Science (2018)]。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、はじめに想定した銅酸化物高温超伝導体と鉄系超伝導体における、電子が自発的に回転対称性を破るネマティック状態を明らかにしつつある。実際、銅酸化物HgBa2CuO4+xの擬ギャップ状態において磁気トルク測定により回転対称性の破れを観測し、ネマティック相転移が起きていることを明らかにした。これにより、長年の謎であった擬ギャップ状態に対する理解を大きく進歩させた。そしてネマティック量子臨界点のもたらす量子ゆらぎにより非フェルミ液体状態や、異常な超伝導状態が出現することを明らかにした。また超強磁場状態で超伝導ペアの組み替えの起こる新しい超伝導状態を発見した。さらに、量子スピン液体候補物質において、様々な分数化された準粒子励起の証拠を見いだした。これらは、すべて当初の計画調書に記載したものでありほぼ実現できたと考える。このように、当初の計画はすべて順調に遂行されており、十分な成果を出したと考える。これ以外にも、キタエフ・スピン液体における半整数熱量子ホール効果の発見(Phys. Rev. Lett., Nature)など、予想外の発見がたくさんあり、期待以上の成果が見込まれた。また本研究計画を遂行する際に、絶縁体における量子振動の発見(Science)など、当初の目的とは別のところでの発見もあった。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 強相関電子系の回転対称性の破れに関する研究: まず、強相関電子系におけるネマティック電子状態の探索では、精密トルク測定ならびにネマティック感受率測定の実験を銅酸化物高温超伝導体のさらにアンダードープ域の研究を行う。さらに本研究では研究対象を拡張し、Ir 酸化物Sr2IrO4の研究を行う。最近この系で、反強磁性転移よりも高い温度で隠れた秩序相と呼ばれる相が観測されている。ドーピング依存性も含めて、この相における回転対称性の破れの検証実験を系統的に行う。試料に関してはコロラド大学から入手済みである。鉄系超伝導体Fe(Se1-xSx)では、x = 0.16 のネマティック量子臨界点近傍に置いて、ホール抵抗、磁気抵抗、ゼーベック係数、ネルンスト係数などを詳細に測定し、ネマティック臨界揺らぎがノーマル状態の電子状態に与える影響を明らかにする。 (2) 量子スピン系におけるエキゾチック準粒子の研究: 引き続き量子スピン系のエキゾチック励起の研究を行う。具体的にはスピン1/2 がダイマーを構成し、それが互いに3次元的に直交するシャストリー・サザランド格子におけるトリプロン励起を熱ホール効果測定により検出する。試料は京都大学より入手済みである。2次元ハニカム格子をもつα-RuCl3 においては半整数量子化の磁場角度依存性を明らかにすることにより、トポロジカルチャーン数を決定する。さらに今後は他のキタエフ・スピン液体候補物質の同様な測定を行いたい。具体的にはLi2IrO3 に対して熱ホール効果の測定を計画している。試料はカリフォルニア大学バークレーより入手済みである。
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