研究課題/領域番号 |
18H05228
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高橋 義朗 京都大学, 理学研究科, 教授 (40226907)
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研究分担者 |
高須 洋介 京都大学, 理学研究科, 助教 (50456844)
段下 一平 近畿大学, 理工学部, 准教授 (90586950)
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研究期間 (年度) |
2018-06-11 – 2023-03-31
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キーワード | 量子エレクトロニクス / 冷却原子 / 量子シミュレーション / 光格子 |
研究実績の概要 |
本研究では、光格子中に導入された極低温原子気体を用いた量子物性に関する独創的な研究として、特に、非標準的な光格子をデザインすることによって初めて可能となる特異な多重軌道の自由度と、2電子系原子のみが特別に有する高スピン対称性SU(N)に着目し、その二つの自由度が織りなすユニークな新量子物性を開拓することを目的としている。原子系として、SU(6)対称性を有するイッテルビウム(Yb)原子量子気体を主な対象とし、また非標準型格子として、平坦バンドを有するリープ格子、基底電子状態と準安定電子状態からなる局在・非局在混合軌道系、などを系のパラメーターを高度に実時間制御して生成し実験を遂行する。光格子の超高空間分解能観測・制御技術を開発して上記研究に適用することにより、量子凝縮相の研究における全く新しい高度な量子シミュレーターを実現することが可能である。 上記の研究に向けて、今年度の研究実績として、まず、1)斥力および引力相互作用するフェルミ縮退原子系の準備とそのリープ格子への導入、副サイト選択原子占有率および2重占有率測定、に成功したことが挙げられる。さらに、2)フェルミ同位体171Yb原子のスピン交換相互作用の決定、局在・非局在2軌道系の実現、局在原子のダイポール振動への影響の観測、スピン交換衝突の観測、およびその定性的な理論的説明、などに成功した。そして、3)等方的な1次元、2次元、3次元の光格子中で、SU(6)スピン系の反強磁性スピン相関を観測、に成功した。最後に、4)非エルミート光格子系の実現とその原子の緩和の観測、に成功し、さらに、非平衡クエンチダイナミクスの実験、およびそのための計算手法開発による定量的な説明、に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
設定した研究項目について研究を進め、それぞれにおいて成果を上げることに成功した。具体的な本年度の研究進捗状況は以下の通りである。 A)これまで、リープ格子の新奇なバンド構造に起因する研究を実施してきたが、平成30年度においては、新たに、斥力および引力相互作用するフェルミ系をリープ格子に導入し、サイト選択的に原子占有率および2重占有率の測定を行うことに成功した。これはこの平坦バンド系におけるフェルミ粒子系の相互作用効果を研究する重要な第一歩である。 B)フェルミ同位体171Yb原子のスピン交換相互作用の決定を行い、近藤効果に必要とされる反強磁性スピン交換相互作用を有していることを発見した。さらに、局在された不純物スピンを導入することに成功し、遍歴原子系に誘起されたダイポール振動への影響やスピン交換衝突の振る舞いを明瞭にとらえることに成功し、理論グループとの密接な議論を行い、定性的な理解を得ることに成功した。 C)SU(4)系の量子磁性で実証したポメランチュク冷却を、SU(6)系へ拡張することに成功し、特に、等方的な1次元、2次元、3次元の光格子中で、反強磁性スピン相関を観測することに成功した。 D)Yb原子の光学遷移の特徴を駆使して、空間反転・時間反転(PT)対称な格子を実現することに成功し、その非エルミート格子軌道系での原子の緩和の振る舞いを詳細に調べることに成功した。さらに、軌道の局在・非局在の実時間制御を行い、その非平衡ダイナミクス、特に相関の伝搬を詳細に実験で明らかにするとともに、理論の研究分担者(段下)と密接なる議論を行い、空間一次元系に対しては行列積状態、3次元系に対しては切断ウィグナー近似法を拡張した理論で、定量的に説明できることを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、以下について集中的に研究を進める。 1) 局在不純物の物理の解明として、昨年度に、近藤効果の量子シミュレーター実装のため、フェルミ同位体171Yb原子のスピン交換相互作用の決定を行い、反強磁性であることを突き止めたが、この171Yb原子を使った量子輸送の実験を進める。650nmの波長の光格子を用いることで準安定状態の原子のみを局在させ、そこで、基底状態の遍歴する原子のスピン状態の重ね合わせ状態を生成し、局在不純物粒子によるスピンの重ね合わせ状態の変化を高精度に観測技術を開発することによりその振る舞いを明らかにする。この比較対象実験として、斥力相互作用する173原子に対しても同様の実験を行う。 2) SU(6)の等方的な様々な光格子配置へ拡張した量子磁性の実験データ、特にスピン相関に対する実験結果を、海外研究者と共同して、量子モンテカルロなどの理論計算と定量的に比較する。また、プラケット格子中のSU(6)系で実現が期待されているSU(4)一重項の存在を確認するとともに、その非平衡ダイナミクスを実験的に明らかにする。さらに、プラケット格子に導入されたSU(2)フェルミ原子の系についても、研究を進める。 3)昨年度に準備したリドベルグ励起用光源を用いて、まず共鳴を確認する分光実験を行い、それを量子気体に適用する。また「非エルミート格子軌道への拡張」に向けて、昨年準備した、Yb原子の光学遷移の特徴を駆使したPT対称な強相関系を用いて、虚数解の出てくるPT-Broken相と実数解のみのPT-Unbroken相の相転移を観測することを目指す。 また新しい方式の固浸レンズの手法を導入した高空間分解能でスピン敏感な量子気体顕微鏡の開発も進める。上記のすべての研究に関しては、各テーマについて理論の研究分担者(段下)と密接なる議論を行う。
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