研究課題/領域番号 |
18H05229
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
杉山 正明 京都大学, 複合原子力科学研究所, 教授 (10253395)
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研究分担者 |
中川 洋 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 物質科学研究センター, 研究副主幹 (20379598)
矢木 真穂 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究, 生命創成探究センター, 助教 (40608999)
佐藤 衛 横浜市立大学, 生命医科学研究科, 教授 (60170784)
齋尾 智英 北海道大学, 理学研究院, 助教 (80740802)
苙口 友隆 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 講師 (90589821)
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研究期間 (年度) |
2018-06-11 – 2023-03-31
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キーワード | 中性子溶液散乱 / 蛋白質重水素化 / 蛋白質階層間連携ダイナミクス / MD連携解析 |
研究実績の概要 |
本課題は、「開発研究」(試料・測定・解析の全てを含む)と開発手法を基にした「実証研究」の2本柱で遂行する計画である。そのためにそれぞれに特徴を持つ3つのマルチドメイン蛋白質(MurD, Hef, Tri-Ub)を選定し、これらを軸に研究を進めている。その中で第2年度は以下の開発研究を重点に行った。【試料調製技術開発】各試料の制御重水素化 (100%重水素化、75%重水素化)に成功し、かつ重水素化率測定法も確立した。非常に困難な技術であるドメインライゲーションの開発では、Tri-Ubでは3つのドメイン中の任意のドメインを重水素化し、かつ、ライゲーションに成功した。【測定技術開発】技術開発実験は予定以上に順調に進行し、全ての試料のH体蛋白質のQENS測定まで完了した。その結果、フォールディング領域からなるMurDと天然変性領域からなるHefのドメインレベルでのダイナミクスの違いを世界で初めて明確に示すことに成功した。更に、Tri-Ubでは、H体を用いてQENS・NSE測定まで進展した。特にNSE実験では、10mg/mLの溶液を用いて拡散定数のQ依存性まで求める事に成功し、MD計算による連携解析を行い「ドメイン間の共同運動」の解析を行った。その特定のドメインが主に首振り運動をしていることが強く示唆する結果を得ている。【解析法開発】NSEデータを参照して、2μs MDトラジェクトリーを主成分分解により詳細に解析した。その結果、蛋白質の全体構造が協調して動く協同運動と部分構造のみが動く局所運動に分けられることが分かった。さらに協同運動は2つの準拡散過程からなるのに対し、局所運動は1つの準拡散過程からなることも明らかになった。準拡散過程は凸凹した粗いエネルギー曲面上のランダムな運動において観察されるため、蛋白質の粗いエネルギー曲面には2つの階層性があることを示すことに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述のように本課題では、「開発研究」(試料・測定・解析の全てを含む)と開発手法を基にした「実証研究」の2本柱で遂行している。第2年度は研究計画書通りに「開発研究」を重点に行った。【試料調製技術開発】試料調製技術開発の目標は、制御重水素化とヘテロ重水素化ドメイン蛋白質の調製法確立(ドメインライゲーション技術の開発)である。前者に関しては、各試料の制御重水素化 (100%重水素化、75%重水素化)に成功し、かつ質量分析を用いた重水素化率測定法も確立に成功している。更に、重水素化の低コスト化を目指して、重水回収手法をも確立し、更に、これらの手法を広く一般に開放するために各手法のマニュアルを作成し研究グループのHPにて公開している。これは、当初の予想を超えた成果と言える。また、ドメインライゲーションは、Tir-Ubにおいては成功し、各ドメイン異なる重水素化を施したヘテロ重水素化ドメインTri-Ubの作成に成功し、それを用いたSANS実験も行っている。MurD,Hefにおいてもライゲーションのための変異導入による運動性変化の有無などの基礎的な確認を行った。【測定技術開発】技術開発実験は予定以上に順調に進行し、全ての試料のH体蛋白質のQENS測定を完了している。その際に、実験の基礎となる測定パラメターの確立、試料セルにおける問題点の抽出なども行い、溶液蛋白質試料のQENS/NSE基礎技術を確立することができた。これは、非常に基礎的ではあるが今後の研究において極めて重要な成果である。加えて、MurDとHefの運動性に違いなどの学術的な成果も得ている。【解析法開発】では、得られたデータの解析に加えて全原子MDにおける新たな解析法=カスケードMDの開発に着手している。
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今後の研究の推進方策 |
「開発研究」と「実証研究」のバランスを取りながら進めていく。「開発研究」では特に重要となるドメインライゲーションとそれを用いた世界初のヘテロドメイン重水素化蛋白質調製技術の開発に注力する。そのために可能性のある酵素の網羅的テストを進めていく。中性子散乱研究において、試料重水素化技術は基盤技術であると考えているが、「コスト」と「技術的な困難さ(もしくは過剰に困難であるという間違った認識)」が一般化を妨げている。そこで、より高効率の調製法の探求と研究会・スクールを通して積極的に開発した技術は公開していく。このことにより中性子散乱の一般化と将来のユーザの拡充を図る。散乱測定では、研究グループ内の若手が中心となって申請・採択されたJ-PARC/MLFでの長期課題(代表:中川洋「Clarification of Hierarchical dynamics in protein」)で得られるマシンタイムを基に、特にQENSを活用してMurD、Hef、Tri-Ubのダイナミクスの特性という「学術研究」を進展させる。更に、重水素化試料の調製慣性後は、まずSANSに展開し、これまで開発した計算技術とカップルした新たな解析法開発を一層進める。そのために、計算機を専門とする博士研究員を採用し、計算機解析グループの強化を進める。また、上述の3つの蛋白質に加え、開発した技術を適用し、その生理機能とカップルしたダイナミクスの解析が可能な蛋白質研究も実証研究として進める。更に、NMR、分析超遠心、クライオ電顕などの手法との連携した解析法開発も進め、統合的な解析法の一つとして中性子散乱の有効利用を確立させていく。加えて、PDIファミリー蛋白質や時計蛋白質などの系にも開発した技術を適用し、実証研究の充実も図る。
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