研究課題/領域番号 |
18H05233
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
坂内 健一 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (90343201)
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研究分担者 |
小林 真一 九州大学, 数理学研究院, 教授 (80362226)
安田 正大 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (90346065)
志甫 淳 東京大学, 大学院数理科学研究科, 教授 (30292204)
寺杣 友秀 法政大学, 理工学部, 教授 (50192654)
勝良 健史 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (50513298)
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研究期間 (年度) |
2018-06-11 – 2023-03-31
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キーワード | 数論幾何 / 整数論 / ポリログ / 代数トーラス / L関数の特殊値 |
研究実績の概要 |
昨年までの研究経過を踏まえて、総実代数体に付随する代数トーラスに対してプレクティックDeligne-Beilinsonコホモロジーを定義して、その中にポリログを定義する研究に着手した。ポリログのde Rham実現を具体的に記述しようと試みた過程で、総実代数体のHecke L関数の負の整数点の値の母関数について、新谷卓郎が研究した非標準な母関数について、この母関数を、代数トーラスの同変コホモロジー類として解釈すると、極めて自然で標準的な類を構成できることを発見した。このコホモロジー類を「新谷生成類」と呼ぶことにした。通常、高次のコホモロジー類を点に制限すると消えてしまうが、同変コホモロジー類を考えることで「点での値」をうまく定義できることが新しい発見である。当初は、プレクティックポリログのホッジ実現を完全に書ききるまで、整数論的に面白い成果は得られないと想定していたが、早い段階で、整数論の基本的な結果に対して新しい知見を得たことは、とても嬉しく感じている。上記の結果を受けて、新谷生成類の考え方をベースに、総実代数体に付随するp進ポリログ関数の定義をした。これもやはり、総実代数体の代数トーラスの同変コホモロジー類として定義した。また、この関数の等分点での制限が、p進Hecke L関数の特殊値と一致することを証明した。この成果は、有理数体の場合のColemanの古典的な結果を総実代数体の場合に一般化するものであり、今後、今回の代数トーラスやp進ポリログ関数が数論幾何的予想に対して有用であることを強く示唆する結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
混合プレクティックホッジ構造の圈の対象を具体的に捉えることに成功し、乗法群の直積を例として高次元の場合のポリログを具体的に計算する枠組みを作り上げることに成功した。また、これを利用して代数トーラスのポリログのホッジ実現を計算していく過程で、新谷生成類と言うHecke L関数の特殊値の標準的な母関数の役割を果たすコホモロジー類を発見した。これはすなわち、この場合のポリログがHecke L関数の特殊値と関係すると言うことを確固たる事実として、本研究課題の方向性で、間違いが無いことを保証する結果である。従って研究は、本当にこの方向性で良いか、迷いながら進む段階が終わり、今までに得られた成果を確固たる基盤として、我々が取り組む本質的な問いに対して、どこまで何が言えるか、と言う段階に突入した。 また、新谷生成類は、新谷卓郎により1970年代に生み出された新谷ゼータ関数に対する、コホモロジー類による新しい解釈を与えている。数論幾何的予想にまつわる研究は技術的に高度で抽象的になりがちであるが、この研究の過程で新谷の様な古典的で基本的な研究対象に対しても具体的な成果を出せたことは、計画以上の進展である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画は、基本的に今までの計画を引き続き進めて行く。令和2年度の最初の目標は、総実代数体に付随する代数トーラスのポリログの通常の(プレクティックでは無い)ホッジ実現を具体的に定義して、それを具体的に書き下すことを目指す。今までの研究から、計算としてはこのポリログのde Rham実現を考えると、新谷生成類が与えられることが示されているので、この成果について細部を詰めて論文としてまとめる。 来年度以降は、この構成をプレクティック構造を含めて拡張することを試みる。今まで構成した混合プレクティックホッジ構造の圈を用いて、プレクティックDeligne-Beilinsonコホモロジーの定義を試みる。今までの成果より、このコホモロジーは大体定義できるという状態ではあるが、混合プレクティックホッジ構造を定義する際の複数のホッジフィルトレーションを複体レベルで導入する必要があり、この方法について、検討して行く予定である。これが達成された場合にも、1つの論文としてまとめる。 また、上記と並行して、p進版についての研究も進める。特に、ホッジの場合と同様に、プレクティックDeligne-Beilinsonコホモロジーのp進類似であるプレクティックサントミックコホモロジーを定義して、ポリログのp進実現を構成する。また、このp進ポリログを具体的に計算して、今まで定義した同変コホモロジー内のp進ポリログの特殊値と関係付けることを目指す。これが達成されれば、数論幾何的に構成されたポリログのp進実現が、総実代数体のp進Hecke L関数の特殊値と関係することが証明される。これは、この場合のp進Beilinson予想を与えていることになる。これも達成されたら、論文としてまとめる。
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