研究課題/領域番号 |
18H05234
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
勝川 行雄 国立天文台, 太陽観測科学プロジェクト, 准教授 (00399289)
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研究分担者 |
清水 敏文 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 准教授 (60311180)
久保 雅仁 国立天文台, SOLAR-Cプロジェクト, 助教 (80425777)
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研究期間 (年度) |
2018-06-11 – 2023-03-31
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キーワード | 宇宙・天体プラズマ / 太陽物理学 / 光赤外線天文学 / 気球搭載装置 / 数値モデリング |
研究実績の概要 |
光球とコロナの中間にある「彩層」で発生する動的現象が担う磁気エネルギー輸送と散逸のプロセスを理解するため、大気球太陽望遠鏡SUNRISEで精密な偏光分光観測を実現し、質の高い彩層の3次元磁場・速度場を世界に先駆けて取得することを目指す。そのため、SUNRISEに搭載する近赤外線偏光分光装置SCIP(SUNRISE Chromospheric Infrared spectro-Polarimeter)をドイツ・スペインと共同開発しており、高解像度・高偏光精度を達成できる光学素子、気球飛翔時の温度真空環境に耐えられる光学構造系、高偏光精度を達成する回転波長板駆動機構、高安定度かつ高速に観測視野を移動できるスキャンミラー機構など、他の高精度偏光観測装置や飛翔体観測装置に応用できる要素技術を開発した。並行して、気球観測データと直接比較するため、電磁流体数値シミュレーションにより光球・彩層の動的現象をモデリングする研究を実施している。特に、SUNRISE気球で観測する可視・近赤外線スペクトル線の偏光を非局所熱平衡輻射輸送計算で再現する研究を行い、3次元数値シミュレーションの結果に適用することで、彩層の動的現象で発生する偏光データを再現し、それがSUNRISE気球観測で検出できることを示した。非局所熱平衡輻射輸送計算を基にして、観測される偏光データから太陽大気の物理量を求めるインバージョン手法の開発にも着手しており、気球観測SUNRISEや大型望遠鏡DKISTによる広波長・高精度・高解像度観測データへの適用を目指す。さらに、SUNRISE気球観測に先駆けてひので衛星の偏光分光データを解析し、小さい空間スケールで間欠的に発達する乱流を新たに発見した。小スケールの乱流は彩層、コロナへのエネルギー入力にも影響を及ぼす可能性があり、SUNRISE観測においても重要な観測ターゲットとなり得る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大気球太陽望遠鏡SUNRISEに搭載する偏光分光装置SCIPの開発では、その設計確定にあたり、ドイツ・スペインの協力研究機関が担当する部分の設計を待つ必要があり、若干の遅延が生じたが、問題なく設計を確定し部品の製造まで完了した。今後、偏光分光装置を組み立て、SCIP単体の光学偏光性能試験、熱真空環境での動作実証試験を行う計画であり、その準備も着々と進んでいる。他の高精度偏光観測装置や飛翔体観測装置に応用できる要素技術の開発に成功し、その成果を国内会議や国際会議で発表した。今後、査読誌での論文化を行う予定である。一方、当初計画では2021年の飛翔観測を予定していたが、海外協力研究機関の開発遅延により、飛翔観測を2022年に変更することになった。しかし、このスケジュール変更により、飛翔前の地上試験に十分時間を割くことで、観測装置の信頼度を上げる計画である。これにより、研究期間内の飛翔観測とその観測データに基づく成果創出をより確実にする。 電磁流体数値シミュレーションによる太陽光球・彩層のモデリング研究では、非局所熱平衡輻射輸送計算コードを使い、SUNRISE気球太陽望遠鏡で観測する可視光・赤外線のスペクトル線で発生する偏光を再現できるようになった。この成果は査読論文として公表しており、期待どおりの成果が出ていると言える。さらに、観測される偏光データから太陽大気の磁場・速度場などの物理量を導出するインバージョン手法の開発にも着手しており、SUNRISE飛翔観測で得られるデータに即座に適用できる準備を整えつつある。SUNRISE気球観測に先駆けて、ひので衛星等の既存装置の偏光分光データを解析することでも成果が得られており、SUNRISE気球観測や次世代大型望遠鏡DKISTで狙うターゲットの先鋭化に貢献している。 以上の理由から順調に研究が進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
SUNRISE気球望遠鏡に搭載する近赤外線偏光分光装置SCIPの組立を完了し、SCIP単体で光学性能・偏光性能を実証する。スペイン担当のSCIP制御装置およびカメラと結合させることで、日本担当の駆動機構との同期制御と機上画像処理機能を実証する。その後、国立天文台の大型真空槽を用いて熱真空光学試験を実施し、SUNRISE飛翔時に想定される温度真空環境における性能を実証する。ここまでを2020年度に完了させる。ドイツ・マックスプランク研究所において、SCIPをSUNRISE望遠鏡本体に組み込み、望遠鏡と結合した総合性能試験や他の観測機器との協調動作試験、気球ゴンドラ上での太陽指向試験を2021年度に実施する。その後、SUNRISE気球の射場であるスウェーデンでの試験を経て、飛翔観測を2022年6月に行う。SUNRISEは、スウェーデンから1週間かけて大西洋上空を飛翔しながら観測し、カナダに着陸する。その間、観測データは機上データレコーダに保存される。取得データを回収しその較正を行う。 太陽光球・彩層のモデリング研究では、観測と直接比較するための数値シミュレーションの改良として、数値計算の空間解像度の向上や加熱・冷却に伴う動的な電離・再結合の効果を取り込んだシミュレーションを計画している。また、偏光データから磁場・速度場などの物理量を導出するインバージョン手法を実際の観測で得られた偏光分光データに適用できることを検証する。そのために、2020年から科学観測を開始する大型地上望遠鏡DKISTの初期観測データを用いる計画である。 モデリング研究で得られた知見をSUNRISE国際科学ワーキンググループにインプットすることでSUNRISE飛翔時の観測計画を策定する。SUNRISE飛翔観測データの解析は、SUNRISE開発班とモデリング研究班の共同で行うことで早期の成果創出を目指す。
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備考 |
[一般向け講演] - 勝川行雄、殿岡英顕、「ロケットと気球で挑む最先端の太陽観測」、アストロノミーパブ (2019年1月)、 三鷹ネットワーク大学 - 勝川行雄「ロケットと気球で挑む新しい太陽観測」、 朝日カルチャーセンター「宇宙への挑戦」(2019年9月)、朝日カルチャーセンター横浜
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