研究課題/領域番号 |
18H05237
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
富田 章久 北海道大学, 情報科学研究院, 教授 (60501434)
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研究分担者 |
平野 琢也 学習院大学, 理学部, 教授 (00251330)
玉木 潔 富山大学, 学術研究部工学系, 教授 (20435928)
藤原 幹生 国立研究開発法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所量子ICT先端開発センター, 研究マネージャー (70359066)
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研究期間 (年度) |
2018-06-11 – 2023-03-31
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キーワード | 量子暗号ネットワーク / 量子暗号鍵配送 / 秘密分散 / 安全性証明 / 量子通信 / 光制御 |
研究実績の概要 |
本研究では秘密分散とQKDの融合により超長期安全性を保証する情報通信ネットワーク基盤を構築することを目的としてネットワーク構築技術,長距離QKD技術, 近距離高速QKD技術,秘密分散-QKDネットワーク理論の研究開発を行っている. ネットワーク構築技術では,秘密分散とQKDの融合プロトコルの実装を行っている.今年度は秘密分散サーバを用いたデータ中継システム,および第三者認証システムの構築を行った.これによって長距離,マルチユーザ量子暗号ネットワークの具体的な構築が実現された. 長距離QKDに向けて,多光子削減プロトコルを提案しているが今年度は実証に用いる2波長量子もつれ光源の設計と製作を行った.また,雑音に強いRR-QKD プロトコルの実装方法及びMDI-QKDの実現のためのパルス同期技術を提案した.さらに,光子の量子状態を誤りなく生成する手法として変調のアーキテクチャを提案・実証した. 近距離高速QKDでは局部発振器の位相同期法の開発が進展した.光注入同期(光学的)とコスタス回路(電気的)の2つの位相同期方法を開発し,局部発振光の位相同期に成功した.また,通常用いられる強度でのCWDM光通信という実用的な環境下で,光通信とCV-QKDが共存可能であることを示した. 秘密分散-QKDネットワーク理論: 光源の任意の不完全性を統一的に扱える表現と安全性証明手法を開発した.これとMDI-QKDを組み合わせることで送受信機の任意の不完全性に対する安全性証明を与えた.また,CV-QKDにおける不完全な局部発信光の取り扱いについても理理論構築が行われた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理由 当初より,本研究期間の前半は要素技術の開発を行い,最後にシステム統合を行うことを計画していた.現在のところ,全体として要素技術の開発は順調に進展している.長距離.高損失伝送路での鍵配送も現在までに装置構成のめどがついている.独立した局部発振光を持つCV-QKDも鍵となる位相同期の動作検証ができている.また,安全性証明も一般的な状況に対する統一的な理論が完成しつつあり,これらの成果を元にして来年度から最終年度にかけて装置プロタイプを作ることができる. さらに,ネットワーク構築技術についてもプロトコルを現在稼働中のTokyo QKD Network上に実装し動作検証を行っている.今後,実装の改良を進めることにより最終年度での秘密分散ーQKD融合ネットワークの実証は十分可能である.
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今後の研究の推進方策 |
本年度も当面それぞれの担当項目の研究を進めるが,共通する技術内容の情報交換やネットワークとQKDシステム,理論と実験の間での連携のため,年2回の全体ミーティングの他随時関係する研究者間でのディスカッションを行い,最終年度でのネットワーク統合に向けた体制を整えていく. 1.ネットワーク構築技術:QKDと秘密分散を用いた安全なデータ中継ソフトウェアの改良及び伝送の高速化を行う.また,Tokyo QKD Network上でのデモンストレーションを行う.その後は,秘匿計算による安全なデータの二次利用を可能とする機能の実装を行う. 2.長距離QKD技術:高損失に耐えるQKDシステムを実現するため,量子もつれ光源の開発を継続する.MDI-QKDについては,時間制御系を開発する.RR-DPSについても提案している実装の動作検証を行う.状態制御はこれらに共通する技術であり,さらに開発を進める.最終的にはQKDシステムとして動作させ,高損失への耐性を示す. 3.近距離高速QKD技術:光通信との共存ではデータ伝送を実際に行い,光パワーも現実的な条件下においてQKDとの共存を実証する.また,受信者側に局部発振光の光源を設置するCVQKDにより鍵生成を実現する.これらの成果を元にCV-QKDシステムを構築する. 4.秘密分散-QKDネットワーク理論:今年度に考案したReference Techniqueを高速QKDシステムに対応させる.また,様々なプロトコルのサイドチャンネル耐性や変調エラー耐性を向上させるための理論を構築する.さらに,Loss tolerant protocolの位相エラー推定を,ランダムサンプリング理論により行う理論を構築する.これらの成果によって実際に開発されるQKD装置の安全性を解析する.
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