研究課題/領域番号 |
18H05240
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
川人 祥二 静岡大学, 電子工学研究所, 教授 (40204763)
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研究分担者 |
香川 景一郎 静岡大学, 電子工学研究所, 准教授 (30335484)
庭山 雅嗣 静岡大学, 電子工学研究所, 准教授 (40334958)
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研究期間 (年度) |
2018-06-11 – 2023-03-31
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キーワード | 光電荷変調素子 / 高時間分解撮像 / バイオメディカルイメージング / 光飛行時間デプスイメージング / 血液動態計測 |
研究実績の概要 |
本研究課題における光電荷変調素子として実現すべき重要課題は、近赤外領域での高速な光電子輸送制御であったが、その点に関して大きな進展があった。ハイブリッドカスケード光電荷変調素子HyCAMの構造上の大きな特徴は、これまで基板部と同電位としていたホールピニング層を電極化して負バイアス印加し、光電子の加速電界を形成することであるが、4タップ型及び8タップ型の光電荷変調素子に、本構造を導入することで、870nm帯の近赤外パルス光に対するキャリア応答性が大きく改善することを実証した。また、HyCAMの主要部であるホールピニング層を多電極化したマルチタップダイオード光電荷変調素子(MTDM)についても試作に成功し、静的動作ながら、90%以上の復調コントラストが得られることが示された。4タップ型及び8タップ型のMTDMについては、80×180ピクセル及び60×270ピクセルからなる2次元アレイの試作を行い、時間分解性能を画像として評価するための準備が完了した。また、HyCAMの出力部の構造であるLEFM素子を用いた光飛行時間距離画像センサにおいて、距離分解能64um(時間分解能430fs)を達成し、直径20mmの球体をサブ100umの分解能で3次元画像計測できることを示した。 超高速マルチタップ光電荷変調素子の医療応用に向けた成果も得られた。内視鏡手術により摘出したサンプルを波長375nm, 405nm, 445nmの半導体短パルスレーザーを励起光源として用いてライン状に照明し、試作素子によって得られた自家蛍光の寿命をフェーザ法により解析した。蛍光フィルタ450nm, 550nmについて、正常部と腫瘍部で蛍光寿命に差が見られる組み合わせを見出した。また、一部の励起波長と蛍光波長の組み合わせについて、マルチトーンを用いて、自家蛍光に混じった複数の寿命成分を分離することにも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、ハイブリッドカスケード電荷変調素子HyCAMの基本構造として、ホールピニング電極の基板からの分離構造、及び多電極化した変調素子の基本試作と、高速応答のためのデバイス形成条件の確立が1つの重要な目標であったが、それらは、概ね達成された。特に、これまでの素子における課題であった近赤外領域での高速キャリア応答が、予測通り得られたことは、大きな進展であった。HyCAMの基本構造素子であるマルチタップダイオード光電荷変調素子(MTDM)について、少数画素による2次元アレイ毎に、特性上クリティカルな形状の寸法をパラメトリックに変化させたテストエレメント試作も予定通り完了した。また、光電荷変調素子の超高速応答及び高感度化の効果の証として目指している光飛行時間距離画像計測における極限的距離分解能(σ=10um)の達成については、現状において64umの分解能(時間分解能430fs)を達成し、半導体TOFイメージセンサとして世界最高を記録した。また、最終目標に対する課題抽出の成果も得られた。 超高速マルチタップ光電荷変調素子の医学・医療への応用計測の成果として、蛍光寿命をフェーザ法によって高精度に計測する手法の確立を目標としていたのに対して、今年度、実際に内視鏡的手術により摘出したサンプルにフェーザ法を適用し、その有用性を確認する等、予定以上の進展が得られた。さらに、当初予定にはなかったマルチトーン法を適用し、蛍光フィルタ450nm, 550nmについて、正常部と腫瘍部で蛍光寿命に差が見られる組み合わせを見出すとともに、一部の励起波長と蛍光波長の組み合わせについて、複数の寿命成分を分離することに成功する等の進展がみられた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られたHyCAMの基本構造素子試作の結果に基づき、2タップ以上のマルチタップ光電荷変調素子を有するピクセルの2次元アレイを試作し、特に近赤外領域における超高速変調特性を画像として獲得することを目指す。また極微弱光を対象とするバイオイメージングに向け、蓄積ダイオードと電荷転送ゲートを備えたノイズキャンセル機構を実現した光電荷変調素子を試作し、その低ノイズ性能と高速応答性を評価する。 また、HyCAMの近赤外領域での超高速変調特性の応用計測における有用性の評価を目的とし、時間分解近赤外分光(TR-NIRS)のための時間分解ピクセル2次元アレイを試作し、従来素子の性能を越える自己応答時定数が得られることを実証する。また試作素子を用いた血液動態情報(散乱係数、吸収係数)の時間・空間分解計測アルゴリズムを構築する。 巨大オフセット光成分を除去するための新たなデバイス・回路構成を有する誘導ラマン散乱ロックインピクセルによるラマン分光1次元アレイを試作し、その高速性及び分解能について評価を目指す。 フェーザ法を用いた蛍光寿命計測については、光学系の効率を改善し、SNRの向上を図るとともに、蛍光寿命の2次元分布の取得を目指す。また、光電荷変調素子の自己応答時定数の向上及び、サンプリング時間間隔の短縮化を図り、より短い蛍光寿命成分における計測精度の向上を実現する。
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