研究課題/領域番号 |
18H05242
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
川野 聡恭 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (00250837)
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研究分担者 |
土井 謙太郎 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (20378798)
辻 徹郎 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (00708670)
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研究期間 (年度) |
2018-06-11 – 2023-03-31
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キーワード | 分子流体力学 / ナノ粒子 / 一分子計測 / 機械学習 / MEMS/NEMS |
研究実績の概要 |
本研究では,イオン,原子,分子および荷電微粒子の電磁場下における特殊流動を統合的に究明し,分子流動科学の利導と機能発現に繋げる新学術「Molectro-Fluid Sciences & Informatics」の構築を目指す.すなわち,従来の流体力学系に「熱揺動と大偏差原理」「電気泳動,熱泳動および光圧」「機械学習による最適設計と制御」に関する知識と技術を融合する.具体的には,対電極群が付加された流体デバイスによる一分子識別に関し,in situ電流計測,シミュレーションおよびベイズ推定を高速・高精度化し,分子流体力学,ナノテクノロジーおよびAIの援用によるゲノム医療の基盤技術創成に資することを目的としている.
平成30年度は,一粒子および一分子のin situ電流計測を目的としたマイクロ・ナノ流路デバイスを作製するためのLED描画装置および電子線描画装置を導入し,微細加工を行うための環境を整備した.直径300nmの微粒子の検出を目標とし,線幅と深さがともに600nmの正方形断面の流路を設計・製作した.Coulterの原理による直径200nmのナノ粒子の電気計測と蛍光観察の同時計測に成功した.今後は,EHD流動場を組み合わせることで粒子の流動制御を実現する.一方,マイクロ流路の流動場に誘起される熱泳動と光圧を重ね合わせることで、分散する微粒子を誘導・捕捉することにより濃縮可能であることの再現性を確認し,狭小部を有する多段の流路構造とレーザー誘起熱泳動によりさらなる向上が見込まれた.次年度以降,この技術をさらに発展させ,微粒子のナノ流路への誘導を高効率化する.また,熱揺動場における粒子の個性を識別するため,大偏差原理に基づく理論モデルの構築とシミュレーションを進めている.機械学習を援用したビッグデータ解析と最適設計についても計画通り進行している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初,描画装置の設置環境など,ナノ流路構造の作製に至るまでの困難が考えられたが,事前の綿密な調査により,大きな遅延なく安定に稼働することができている.H30年度には,目標とする線幅600nmの流路の作製に成功した.一方,電気泳動,熱泳動,光圧,電気流体力学流れによる流動制御技術の基礎を整備することができたことから,次年度には,それらを統合して複合的な流動制御技術へと発展させることが可能と考えられる.また,実験で得られるビッグデータを解析するための大偏差原理と機械学習によるシミュレーションについても前進があったことから,当初の計画以上の進展が見られたといえる.
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,未知未踏の分子流動現象を「知る」「創る」「測る」「操る」「惟る」ことを戦略カテゴリーとし,これらを縦横する3課題:揺らぎの個性に基づく分子識別(Theme 1),液相における極性粒子流のトンネル電流計測とEHD制御(Theme 2),局所レーザー照射による分子マニピュレーション(Theme 3)を重点サブテーマとして研究を進めている.平成30年度には,当初の計画に沿ってMolectro-Fluid Sciences & Informaticsの基盤構築に関する各項目の目標が達成されていることから,平成31年度(令和元年度)には,分子流動評価理論と実験系の構築を遂行する.Theme 1では,前年度に再現的確率流動と力学量の関係について議論してきたことから,本年度ではその評価方法について検討し,非ガウス特性に基づく分子識別技術へと発展させる.Theme 2と3では,電気泳動,熱泳動,光圧,EHD流れを統合するマイクロ・ナノ多段流路の最適設計を行い,ナノ粒子の電気計測と可視化観察を行う.そこで得られる膨大な計測データから粒子識別に対する推定スキームの最適化を図る.
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