研究課題/領域番号 |
18H05242
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
川野 聡恭 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (00250837)
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研究分担者 |
土井 謙太郎 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20378798)
辻 徹郎 京都大学, 情報学研究科, 准教授 (00708670)
山崎 嘉己 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (80926288)
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研究期間 (年度) |
2018-06-11 – 2023-03-31
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キーワード | 分子流体力学 / Nanofluidics / ナノ粒子流 / 一分子計測 / 機械学習 |
研究実績の概要 |
令和3年度の大きな研究成果として,ナノ粒子の狭小部通過流動現象の可視化観察と電流計測の時系列データを高速解析し,特徴量には,イオン電流の時系列データにおける汎用的な物理量に加え,実験データのばらつきを補正するパラメータや大偏差原理に基づく統計量の導入を試みた.予備試験では,2種の粒子に対してクラス分類を行った結果,正答率は95%を超えており,粒子識別の基盤技術構築が想定以上に進展している.
また,光渦による粒子の捕捉操作と微小電流計測を融合することにより,一粒子解析の高精度化を実現した.液中において光渦により駆動される粒子の軌道直径に対応したマイクロスケールおよびナノスケールの二重スリット構造を作製し,運動の周期に応じたイオン電流応答の計測に成功した.周期的な電流波形が得られることにより容易に同期加算平均を取ることができ,高い信号雑音比を実現することが可能となった.二重スリット構造を用いて光渦による粒子の円軌道運動を実現できたことから,液の流動に対する順方向と逆方向の運動を一度の実験で計測することにも成功した.
さらに,Laser-Induced Multi-Stage Trapping法のThermal optofluidicsへの展開として,光圧や熱泳動力だけでなく熱対流の影響を取り入れることを検討した.熱対流による抵抗は光圧のような高い空間解像度を持たず,また,熱泳動力のような粒子選択性も持たないため,光圧や熱泳動力と同等なスケールで熱対流の影響を適切に制御する必要がある.そこで,熱対流の強さに対して支配的なパラメータであるマイクロ流路の大きさを,in situに変化させることが可能な流路を作製した.その結果,熱対流/熱泳動が拮抗するような条件を見出し,それぞれが卓越している場合において,数十マイクロメートルスケールの広範囲で粒子の濃縮/枯渇が起こることを実験的に示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Thema 1では,ナノ粒子の狭小部通過における時系列データの高速解析・クラス分類システムの構築を進めている.動画像からナノ粒子の狭小部通過を判断し,同期計測したイオン電流を的確に抽出する.ナノ粒子の狭小部通過は偶発的に発生するが,可視化観察と電流計測の同時実行により,識別に必要な教師データの収集を効率よく行うことができる.異なる粒子径のデータをクラス分類した結果,正答率95%以上を達成した.実験装置の精度や粒子挙動データのばらつき,大偏差原理に基づくハイパーパラメータ等を特徴量に導入し,識別システムのさらなる高度化に取り組んでいる.
Theme 2では,直径80 nmから200 nmの金ナノ粒子を光渦により捕捉して操作することを可能とし,さらに,粒子の軌道運動に合わせて微細加工により作製した二重スリット構造を用いることで周期的な電流波形を取得することに成功した.ポリスチレン粒子がスリットを通過するときにはイオン電流の減少が見られるが,金ナノ粒子の場合にはイオン電流が増加することが確かめられた.各種粒子の電流波形は,抵抗性の成分と伝導性の成分の重ね合わせによる結果であり,特にそれらの表面性状に依存して波形に差異が現れると考えられる.
Theme 3において,Laser-Induced Multi-Stage Trapping法はlong-range化等の高機能化が計画通りに進行し,粒子操作技術として成熟しつつある.この点については,論文発表や学会の招待講演などを通じて成果の公表を積極的に行っており,研究は順調に進んでいると言える.一方で,ナノギャップ電極付き流路を用いた実験や電流信号の機械学習スキームとの融合の点については模索段階であるが,現在はTheme 1の知見を援用したシミュレーションベースの方法を用いた実験デザインの検討を進めており,最終年度に向けて準備が整いつつある.
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今後の研究の推進方策 |
Theme 1では,大偏差原理に基づく分子識別理論を引き続き高度化し,識別システムの精度を飛躍的に向上させるハイパーパラメータを決定する.動画像と時系列データの高速処理を融合させ,再現的確率流動解析システムの実装を目指す.また,粒子径の異なる複数のナノ粒子やモデルDNAの流動に本識別システムを適用し,その精度について検証を行う.さらに,多種および未知の粒子がナノポア検査部に流入する実用的ケースに対応できるよう,教師なし学習によるクラスタリングに挑戦し、教師あり学習で得られた知見をも拡充しつつ革新的なシステムの創成に尽力する.
Theme 2では,一粒子から得られる電流波形のさらなる高精度化を実現するとともに,抵抗性または伝導性の波形から新たな特徴量を見出すことを試みる.これにより,同一サイズの粒子であっても表面性状の違いからそれらの識別が可能となることが期待される.粒子サイズの減少にともなって信号雑音比が低下することが予想されるが,Theme 1で開発を進めている機械学習を援用することで高精度化を維持しつつ,分子サイズの一粒子識別技術の確立を目指す.また,粒子サイズに対応したナノギャップ電極および電極の並列配置についても継続して研究開発を進める.
Theme 3では,遠方に及ぶ熱泳動力と3次元制御の可能な光渦等の光圧を用いるLaser-Induced Multi-Stage Trapping法を引き続き発展させる.特に,一分子識別装置の最適設計に向けて,レーザー照射下における熱流体・分子運動解析の高速シミュレータの開発を進める.これにより,分子運動のマルチスケール解析が可能となり,一分子識別装置の設計が加速される.さらに,ナノギャップ電極付き流路を用いた実験や電流信号の機械学習スキームとの融合の点については,数百ナノメートルの比較的大きい検体を手始めとして進めていく予定である.
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