研究課題/領域番号 |
18H05244
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
石山 敦士 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (00130865)
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研究分担者 |
植田 浩史 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (10367039)
野口 聡 北海道大学, 情報科学研究院, 准教授 (30314735)
東 達也 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学総合研究所 分子イメージング診断治療研究部, 部長(定常) (50324629)
福田 光宏 大阪大学, 核物理研究センター, 教授 (60370467)
鷲尾 方一 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (70158608)
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研究期間 (年度) |
2018-06-11 – 2023-03-31
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キーワード | 電気機器工学 / 超伝導材料 / 加速器 / 量子ビーム / 癌 |
研究実績の概要 |
本研究の目標は、核医学治療用α線放出RI(211At)の多量・安定・分散生産のための加速器「高温超伝導スケルトン・サイクロトロン(HTS-SC)」を開発することである。そして本課題では、ビーム加速に必要な磁場を高精度に形成するための高温超伝導マルチコイルシステムを実現する5-High技術(高機械強度・高電流密度・高熱的安定・高磁場・高精度磁場)を統合した革新的コイル化技術の確立を目指す。2019年度(2年目)の主な成果としては、まず、2021年・22年度に試作・実験を予定している「小型モデル(Baby-HTS-SC)」用REBCOマルチコイルシステムの設計を予定より前倒して終了した。また5-High統合コイル化技術については、1)高機械強度化技術:非円形小型モデルコイルの高磁場(10T)下での通電試験(電磁応力・ひずみ測定)を実施し、初年度実施した数値解析で予測された結果が得られた。2)高電流密度化と高熱的安定化を両立する技術(無絶縁コイル技術):コイルサイズ、運転温度、発生磁場等をパラメータとして過渡安定性を解析評価した結果、HTS-SC用のような大口径(0.5mφ以上)コイルにおいて無絶縁コイル技術が特に有効であることを明らかにした。また、層間の接触電気抵抗の適正値の決定法とその制御法を提案した。さらにREBCO線材の一部に欠陥や電磁力等による線材劣化が存在・発生しても、従来の外部保護抵抗によるエネルギー回収を行わずに運転を継続できる可能性を示すことができた。3)高精度の磁場を発生する技術(遮蔽電流磁場の低減):遮蔽電流磁場低減法の1つである細線化後の線材に安定化銅をメッキ(実用上不可欠)したときの不整磁場を低減する新しい電流制御波形を提案しその効果を明らかにした。また無絶縁コイル巻線技術を適用した時の遮蔽電流磁場の影響評価を可能とする計算機プログラムを新たに開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
全体として期待以上の成果が見込まれる状況にある。本研究を含めた成果が認められ、公益財団法人「低温工学・超電導学会」より、「2020年度業績賞(学術業績)」を受賞した。 まず、「HTS-SCマルチコイルシステムのための5-High統合・革新的コイル化技術の開発」については、1)高機械強度化技術:2018年度唯一未達であった非円形セクター小型モデルコイルを試作し、高磁場下での試験・評価(変形・ひずみ測定)を実施した。2)高電流密度化と高熱的安定化を両立する技術:予定していた項目はすべて予定通り進捗している。加えて、実応用上重要となる「無絶縁コイル巻線内の層間接触電気抵抗のばらつきの影響」と「無絶縁マルチコイルシステムの保護法」に関する新たな知見・指針が得られた。3)高精度の磁場を発生する技術(遮蔽電流磁場の低減):予定通り進捗し、遮蔽電流磁場の影響低減法の効果を示すことができた。加えて線材に安定化銅をメッキ(実用上不可欠)したときの不整磁場低減のための電流制御波形を提案した。 つぎに「5-High統合・革新的コイル化技術の展開」については、無絶縁コイル技術と遮蔽電流による不整磁場の低減技術の2つを統合したときに生じる課題に取り組むための短時間で精度の高い解析評価を可能とする手法を提案した。また、遮蔽電流の偏流による電磁応力・ひずみの影響が内外で問題視されたことから、そのための計算機プログラムを新たに開発した。これは、「予見していなかった展開(課題)への対応」である。 さらに「211At製造のための実規模HTS-SC用マルチコイルシステムの試設計」については、ヒアリング審査時に、磁気シールを含めた設計の必要性の指摘があったことから、鉄シールド付きコイルシステムの試設計を項目に追加し、本項目を1年前倒しで開始した。実応用に向けて有効な知見が得られつつある。
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今後の研究の推進方策 |
5-High統合・革新的コイル化技術をHTS-SC用マルチコイルシステムに適用した場合の電磁的・熱的・機械的特性評価を進めていく。また2020年度・21年度において、最終年度(2022年度)に予定している小型マルチモデルコイルシステムによる試作・実験によって、5-High統合・革新的コイル化技術の実現性・有用性をどのように検証するかを検討・決定し、それに基づく実験・評価システムを構築していく。以下に項目ごとの概要をまとめる。 まず、「HTS-SCマルチコイルシステムのための5-High統合・革新的コイル化技術の開発」については、1)高機械強度化:マルチコイルを構成する無絶縁コイルの一部が常伝導転移したときのコイル間の電磁力バランスの変化の予測とそのための支持構造について検討を進める。2)高電流密度化と高熱的安定化を両立する技術: 実規模HTS-SC用無絶縁マルチコイルシステムのコイル保護法について検討を進めるとともに、「高安定・無保護」および欠陥を許容する技術に基づく「低コスト化」の可能性を探っていく。3)高精度の磁場を発生する技術: 多目的使用の可能性を検証するため発生磁場変化時の挙動・影響評価とその低減法に焦点を当てる。 つぎに「5-High統合・革新的コイル化技術の展開」については、本研究のキーテクノロジーである「Super-YOROIコイル補強構造」、「無絶縁コイル巻線技術」、「遮蔽電流磁場低減技術」を適用した時のHTS-SC検証用小型マルチコイルシステムの電磁的・熱的・機械的特性を数値解析により予測し、その成果を実験による検証に反映する。 さらに、「211At製造のための実規模HTS-SC用マルチコイルシステムの試設計」として、エネルギー変化時の運転パターンを想定したときに求められる仕様や運転制御を考慮し、これらを設計条件に加えたコイルシステムの最適化も進めていく。
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