研究課題/領域番号 |
18H05246
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高梨 弘毅 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (00187981)
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研究分担者 |
伊藤 啓太 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (70791763)
関 剛斎 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (40579611)
内田 健一 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 磁性・スピントロニクス材料研究拠点, グループリーダー (50633541)
白井 正文 東北大学, 電気通信研究所, 教授 (70221306)
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研究期間 (年度) |
2018-06-11 – 2023-03-31
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キーワード | スピントロニクス / 金属人工格子 / 反強磁性 / スピン軌道相互作用 / スピンカロリトロニクス |
研究実績の概要 |
本年度は、①スピンオービトロニクス、②反強磁性スピントロニクス、および③スピンカロリトロニクスの各研究項目について、以下の研究内容を実施した。 ①スピンオービトロニクス:界面磁気異方性とスピン軌道トルクとの相関性を解明するために「非磁性層1 / 強磁性層 / 非磁性層2」の3層構造を基本とし、2018年度から引き続きPd/Co/Pt積層膜を用いて系統的な実験を実施した。高調波ホール電圧測定からスピン軌道トルクのダンピングライク(DL)成分およびフィールドライク(FL)成分を見積もり、そのCo層厚による変化を調べたところ、DLトルクはCo層厚に依存しないのに対して、FLトルクはCo層厚に依存し、有効面積あたりの垂直磁気異方性エネルギーとの相関が見られることを発見した。 ②反強磁性スピントロニクス:反強磁性構造のための層間交換結合を示し且つスピンホール効果の大きな非磁性層材料を探索した。2018年度の研究において、Ir添加したCu を非磁性中間層としたCo/Cu-Ir/Coが反強磁性結合を示すことが明らかとなった。そこで、当該年度は高調波ホール電圧測定およびスピンホール磁気抵抗効果測定を用いて、Irを5%添加したCuのスピンホール角を定量評価したところ、およそ4 %の比較的大きな値が得られることが明らかとなった。 ③スピンカロリトロニクス:磁気熱電効果に対する界面効果およびナノ積層効果を理解することを目的として、2019年度はNi/Pt人工格子の異常ネルンスト効果のNi膜厚依存性を系統的に調べた。NiとPtの人工格子を形成することにより、Ni単層膜と比較して異常ネルンスト係数が一桁大きくなることを見出した。またPtをCuに置き換えたNi/Cu人工格子の異常ネルンスト効果も調べ、Ni/Ptとの比較を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度の研究内容に関して、研究項目毎に以下の内容を当初計画した。 ①スピンオービトロニクス:非磁性層1/強磁性層/非磁性層2における界面磁気異方性とスピン軌道トルクの相関性の解明 ②反強磁性スピントロニクス:反強磁性交換結合と大きなスピン軌道トルクを両立できる強磁性層/非磁性層/強磁性層構造の探索、スピン軌道トルクによる磁化スイッチング、反強磁性磁化ダイナミクスの解明 ③スピンカロリトロニクス:大きな誘導磁気モーメントを有する金属人工格子、およびスピン軌道相互作用が大きい金属人工格子における磁気熱電効果 上記の計画に沿って、Pd/Co/Pt積層膜において界面磁気異方性とスピン軌道トルクの相関性に関する詳細な知見が得られ、また反強磁性結合を示すCu-Irのスピンホール効果を定量的に調べ比較的大きなスピンホール角が得られることを明らかにし、さらにNi/Pt人工格子における異常ネルンスト効果の増大の観測にも成功した。よって、今年度の研究実施内容は計画を概ね達成するものであり、研究は順調に進展しているものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
①スピンオービトロニクス:「非磁性層1/強磁性層/非磁性層2」の3層構造を基本とする。2019年度に得られたPd / Co / Ptにおける知見をベースとして、材料の種類を拡張させた系における実験や第一原理計算を行い、界面磁気異方性とスピン軌道トルクの相関についてより深い理解を目指す。加えて、界面に極薄の異種原子層や酸化層、窒化層などを挿入する効果についても検討し、スピン軌道トルクを増強させるための指針を得る。 ②反強磁性スピントロニクス:「強磁性層/非磁性層/強磁性層」の3層構造を基本とし、反強磁性構造のための層間交換結合と磁化スイッチングのための大きなスピン軌道トルクを両立できる非磁性層材料の探索を継続する。2019年度は、Ir添加Cuが非磁性層材料の有力候補であることが示された。今後はCo/Cu-Ir系人工格子において面内電流による磁化スイッチングの実証を行うとともに、界面にスピン軌道相互作用の大きなPt層を挿入する効果や、反強磁性磁化配置におけるスピン軌道トルクの増大について調べる。 ③スピンカロリトロニクス:引き続き、金属人工格子における異常ネルンスト効果を評価する。2019年度の研究では、Ni/Pt系人工格子において、Ni層の薄膜化がネルンスト効果の増大に有効であることが示された。2020年度は更なるネルンスト効果の増大を目指し、ホイスラー合金などの規則合金をベースとする金属人工格子を作製し、異常ネルンスト効果を調べる。また、非磁性層に絶縁体を用いた人工格子における熱伝導の抑制についても検討する。さらに、計算機シミュレーションによりナノスケールでの熱伝導を理解し、性能指数を向上させるための指導原理を探索する。
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